嗜好しかう)” の例文
なほ天堂に於ける天女エンゼルにして、もしその面貌醜ならむか、濁世だくせい悪魔サタン花顔雪膚くわがんせつぷに化したるものに、嗜好しかうの及ばざるや、はなはだ遠し。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
標準に拘泥こうでいすることなかれ。手前勘の理想をかつぎまはることなかれ。嗜好しかうにあやまたるゝことなかれ。演繹的なることなかれ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
宗助そうすけ相當さうたう資産しさんのある東京とうきやうものゝ子弟していとして、彼等かれら共通きようつう派出はで嗜好しかう學生がくせい時代じだいには遠慮ゑんりよなくたしたをとこである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
如何にも貴嬢あなた嗜好しかうに適合してるんですもの——梅子さん、私はだ篠田さんをお見掛け申したことが無いのです、けども私それと無く道時に尋ねて見ましたの
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
最初は卷藁まきわら、それから、身分の者は憚つた刑場の二つ胴試し、ツイ惡友に誘はれて、その頃によくあつた辻斬を試みてから、次第に病的な嗜好しかうが高じて、江戸の街の闇を横行して
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
葡萄ぶだう他人ひとすゝめられてたが、れも到底たうていかれ嗜好しかうあざむくことは出來できなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
宗助そうすけ坂井さかゐからつてしなが、御米およね嗜好しかうつたので、ひさりに細君さいくんよろこばせてつた自覺じかくがあるばかりだつたから、別段べつだんそこにはかなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)