唐獅子からじし)” の例文
私が再びうなずきながら、この築地つきじ居留地の図は、独り銅版画として興味があるばかりでなく、牡丹ぼたん唐獅子からじしの絵を描いた相乗あいのり人力車じんりきしゃ
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
引いた上、下の部屋には番頭さんと福次郎どんが、唐獅子からじしのやうにがん張つて居るんです。いくら私が遊び好きでも、脱け出せやしません
用材はくすのきである。それは地車の唐獅子からじしの如く、眼をむいて波の上にどっしり坐り、口を開いて往来をにらんでいるのであった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
その母に、いつも、くっついていたのが、般若の五郎という三ン下、さっきの鳥打帽の男、唐獅子からじしの十郎さんの親父です
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
かたわらの飾り台の上に、大いなる青銅の香炉こうろありて、香煙立ち昇る。傍に、唐獅子からじしの陶器の香盒こうごうを置く。王座のうしろに、丈高き二枚折りの刺繍屏風。
坂の中段もとに平生ふだん並んで居る左右二頭の唐獅子からじしは何処へかかつぎ去られ、其あとには中々馬鹿にはならぬ舞台花道が出来て居る。桟敷さじきも左右にかいてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
唐獅子からじし青磁せいじる、口ばかりなる香炉こうろを、どっかとえた尺余の卓は、木理はだ光沢つやあるあぶらを吹いて、茶を紫に、紫を黒に渡る、胡麻ごまこまやかな紫檀したんである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大覚寺の松は舞っている、大安寺の藤は遊んでいる、永納の証ある『鷹』は見ましたけれど、毛利家にあるという『唐獅子からじし』を見る機会を得ないのが残念です。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
きょうも明るい日が大きいいらかを一面に照らして、堂の家根やねに立っている幾匹の唐獅子からじしの眼を光らせている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三日ほどまえから、黄昏たそがれどきになると一束の花を持ってここへ電車でやって来て、東京市の丸い紋章にじゃれついている青銅の唐獅子からじしの下で、三四時間ぐらい黙って立っているのである。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
甲谷は銭石山の視線が、自身の話にようやく流れ込んで来たのを感じると、ますます乗り気になって、八仙卓の彫刻の唐獅子からじしの頭髪に、指頭の脂肪を擦り込みながら、ふと傍のお柳の顔を見た。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
紅毛の唐獅子からじしが百匹も一度におどり出すようであった。
Liber Studiorum (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ゑばに飽きたる唐獅子からじし
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
その徳蔵が気楽さうに、牡丹ぼたん唐獅子からじしの画をいた当時の人力車を引張りながら、ぶらりと見世先へやつて来ました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お銀様の見ている上段三間の大床の壁には、百年或いは二百年以上の時代を帯びた、金碧燦爛たる極彩色の、滝と、牡丹ぼたんと、唐獅子からじしが描かれているのであります。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
隊長の両腕に、唐獅子からじしの彫青が見える。いやに落ちついた、馬鹿叮嚀な言葉つきで、夜目にも白く眼の光る、ちょっと凄味のある男である。きっと、今夜の演出家にちがいない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
唐獅子からじしの彫青を包んでから、相手は、静かな語調で、呼びかけて来た。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)