十字架じゅうじか)” の例文
金の十字架じゅうじか、金で飾りたてた祭壇さいだん、金のころもを着た僧侶そうりょたち! 教会のまむかいには、ギザギザのある屋根を持った建物がありました。
そしてだんだん十字架じゅうじかまど正面しょうめんになり、あの苹果りんごにくのような青じろいの雲も、ゆるやかにゆるやかにめぐっているのが見えました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「だからそれへこの札をつけてさ。——ほれ、ここにくぎが打ってある。これはもとは十字架じゅうじかの形をしていたんだな。」
蜃気楼 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十字架じゅうじかがそれを証明しているんだ。だから、悲壮感は決してはじではない。むしろ悲壮感のない生活が恥なんだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
云い渡すと、郎党たちは、彼をらっして、あらかじめ作っておいた十字架じゅうじかに、彼の手頸てくび足頸をくくりつけた。——そして大勢してそれを滝川の岸までになって行った。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歌姫の歌には、ちょうどそれと同じかろやかさと確かさとがありました。またわたしは、ゴルゴタのおか十字架じゅうじかの下で苦しみなやむ母親のことを思わずにはいられませんでした。
むかしキリストというおかたは人間のためには十字架じゅうじかの上で身を殺してさえ喜んでいらっしたのではないか。もう私は泣かぬ。さあ早くこの玉を取ってあのわかい武士にやってくれ、さ、早く
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
われよりも息子むすこまたはむすめあいするものは、われ相応ふさわしからず。またおのが十字架じゅうじかをとりてわれしたがわぬものは、われ相応ふさわしからず。生命いのちものは、これをうしない、がために生命いのちうしなものは、これをべし
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
内陣ないじんには、祭壇さいだんや、金ピカの十字架じゅうじかが、立っていたことでしょう。そしてそこには、金のころもをまとった僧侶そうりょたちが、歩いていたことでしょう。
そしてたくさんのシグナルや電燈でんとうあかりのなかを汽車はだんだんゆるやかになり、とうとう十字架じゅうじかのちょうどまかいに行ってすっかりとまりました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
キリストは血まみれになって、道ばたの十字架じゅうじかにかかっていました。これは新しい時代の人々にとっては古い画像です。でもわたしは、それらが建てられるのを見てきました。
家の修覆しゅうふくさえまったければ、主人の病もまた退き易い。現にカテキスタのフヮビアンなどはそのために十字架じゅうじかを拝するようになった。この女をここへつかわされたのもあるいはそう云う神意かも知れない。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
白い十字架じゅうじかがたって、それはもうこおった北極の雲でたといったらいいか、すきっとした金いろの円光をいただいて、しずかに永久に立っているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
でも、それよりさきに、おとうさんのお墓の上に立てるように、大きな木の十字架じゅうじかをつくりました。ヨハンネスは、夕方、それを持って、お墓へ行きました。ところが、どうでしょう。
そして見ているとみんなはつつましくれつを組んで、あの十字架じゅうじかの前の天の川のなぎさにひざまずいていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ところが、黒い十字架じゅうじかと、黒いカラスたちが、目の前に入りみだれていて、その見わけが、はっきりとつきません。カラスたちは、昼間と同じように、カー、カー、鳴きさけんでいます。
まっ白な、あのさっきの北の十字架じゅうじかのように光る鷺のからだが、十ばかり、少しひらべったくなって、黒い脚をちぢめて、浮彫うきぼりのようにならんでいたのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
見えない天の川のずうっと川下に青やだいだいやもうあらゆる光でちりばめられた十字架じゅうじかがまるで一本の木という風に川の中から立ってかがやきその上には青じろい雲がまるいになって後光のようにかかっているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)