刺繍ぬひとり)” の例文
金糸銀糸の刺繍ぬひとりをほどこした裲襠うちかけ、天地紅の玉章たまづさを、サツと流して、象の背に横樣に乘つた立兵庫たてひやうご、お妙の美しさは、人間離れのしたものでした。
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
縁に赤い糸で刺繍ぬひとりをした真白な手巾ハンカチを懐ろから取り出して、然るべく用を足すと、またもやそれを几帳面に十二折りに折りたたんで、懐中へ仕舞ひこんだものだ。
編物だの刺繍ぬひとりだの、まあそんなことをね(意味ありげに)それから、もつと外のこともしましたの、無論ご存じでせうがトルヷルトは結婚するとすぐ役所の方を引きました。
人形の家 (旧字旧仮名) / ヘンリック・イプセン(著)
それから帽子の下に巻いてゐた刺繍ぬひとりのあるきれけた。女は窓の外へ来た時、実はそんなに濡れてはゐなかつた。さも濡れたらしい様子をして、草庵に入れて貰はうとしたのである。
水色の絹地におなじ水色レエスの刺繍ぬひとりあるパラソルかざした彼女を先立てて
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
灼熱しやくねつてんちりあかし、ちまた印度インド更紗サラサかげく。赫耀かくえうたるくさや、孔雀くじやく宇宙うちうかざし、うすもの玉蟲たまむしひかりちりばむれば、松葉牡丹まつばぼたん青蜥蜴あをとかげひそむも、刺繍ぬひとりおびにして、おごれる貴女きぢよよそほひる。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
活々として、佳き刺繍ぬひとりをだいなしにして
この小娘が人を殺す——それは想像もつかないことですが、この娘の踊り衣裳を見ると、肩のあたりにしたゝか金糸銀糸を刺繍ぬひとりして、妙に平次の疑ひを掻き立てます。
くツきりとした頸脚えりあしなが此方こなたせた後姿うしろすがたで、遣水やりみづのちよろ/\と燈影ひかげれてはしへりを、すら/\薄彩うすいろ刺繍ぬひとりの、數寄すきづくりの淺茅生あさぢふくさけつゝ歩行ひろふ、素足すあしつまはづれにちらめくのが。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一方、カテリーナは金絲で絹の手巾ハンカチ刺繍ぬひとりをしにかかつた。
ヘルマー それよりか刺繍ぬひとりをなさる方がいゝでせう。
人形の家 (旧字旧仮名) / ヘンリック・イプセン(著)
昨夜、金糸の刺繍ぬひとりをした着物を着て、この橋を渡つたものがないか、橋番所で訊いて見よう。
「だが、與三郎の死骸の爪の間に、刺繍ぬひとりの金糸が、ほんの少し挾まつて居たのだよ」