利根川とねがわ)” の例文
磯野とも一度鰻屋うなぎやで二人一緒に飯を食ったきりで、三日目の午後には、もう利根川とねがわの危い舟橋を渡って、独りで熊谷くまがやから汽車に乗った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もとより田舎の事とて泥臭いのは勿論もちろんだが、に角常陸から下総しもうさ利根川とねがわを股に掛けての縄張りで、乾漢こぶんも掛価無しの千の数は揃うので有った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
あれが来がけに浪さんと昼飯を食った渋川しぶかわさ。それからもっとこっちのあおいリボンのようなものが利根川とねがわさ。あれが坂東太郎ばんどうたろうた見えないだろう。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
櫓の音ももウ消え消え,もウ影も形も……櫓の音も聞えない,目に入るものは利根川とねがわの水がただ洋々と流れるばかり……
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
種類としてはたちのいいふななのを校長はすぐ見てとった。利根川とねがわを渡って一里、そこに板倉沼というのがある。沼のほとりに雷電らいでんを祭った神社がある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
百余年以前には、村の戸数こすう上下じょうげをあわせて百六、七十、まだその以外にも同じ火災のあとで、利根川とねがわの川口に近い新田場しんでんばへ、疎開そかいさせた家が数十戸もあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夜中に利根川とねがわを渡った。渋川の橋は、捕方が固めていたので、一里ばかり下流を渡った。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
渋江氏の一行は本所二つ目橋のほとりから高瀬舟たかせぶねに乗って、竪川たてかわがせ、中川なかがわより利根川とねがわで、流山ながれやま柴又しばまた等を経て小山おやまいた。江戸をることわずかに二十一里の路に五日をついやした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
利根川とねがわの河畔にある布佐ふさという町の、かなり大きな料理屋であったが、一年ちょっとで良人に死なれ、生れてまのない女の子があるため、百日ほど辛抱したあと、しゅうとめとうまくゆかないので
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この川が洪水を起すと、昨日まで利根川とねがわを流れていたはずの黄河が、今日は天龍川上流辺からドッとあふれて名古屋の海へ流れこみ、その中間の何百方里が湖水になるという大変動をやらかす。
武者ぶるい論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「……利根川とねがわだ」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ステンカラの粗末な洋服を着ており、昔し国定と対峙たいじして、利根川とねがわからこっちを繩張なわばりにしていた大前田の下ッでもあったらしく、請負工事の紛紜いざこざで血生臭い喧嘩けんかに連累し
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
第一、和船の細いなど、どういうわけであのようなものができたであろうか。私は利根川とねがわのへりに成長したから、あの細い櫓はよく知っているが、あれは日本の特徴と思う。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
利根川とねがわ河畔かはんにある布佐ふさという町の、かなり大きな料理屋であったが、一年ちょっとで良人おっとに死なれ、生れてまのない女の子があるため、百日ほど辛抱したあと、しゅうとめとうまくゆかないので
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)