内濠うちぼり)” の例文
下城したときはもうすっかりれていた。かなり強い北風で、道から砂埃すなぼこりが舞いあがり、内濠うちぼりの水は波立って、頻りに石垣を打つ音が聞えた。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
城内にもひとすじの内濠うちぼりがあったが、そこは溝渠こうきょのような幅しかない。累々るいるいと重なりあう死骸の血が、そこの水まであかくした。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
友達に別れると、遽然にわかに相川は気の衰頽おとろえを感じた。和田倉橋から一つ橋の方へ、内濠うちぼりに添うて平坦たいら道路みちを帰って行った。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
江戸城、内濠うちぼりうしふち。——名からしてあんまり気味のいい名まえではない。
しかいわがくれの裏に、どうどうと落ちたぎる水の音のすさまじく響くのは、大樋おおどいを伏せて二重に城の用水を引いた、敵に対する要害で、地下を城の内濠うちぼりそそぐと聞く、戦国の余残なごりださうである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「どうして江戸でない事がございましょうか。内濠うちぼり、外濠、幾つもの御門を通らなければ、江戸城の外へは出られませぬ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸大城の関門とも言うべき十五、六の見附みつけをめぐりにめぐる内濠うちぼりはこの都会にある橋々の下へ流れ続いて来ている。その外廓そとがわにはさらに十か所の関門を設けた外濠そとぼりがめぐらしてある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「偏耳録」によると、双子家は永代えいたい御堀支配という役で、家禄は百八十石三十五人扶持ぶちだとある。城の内濠うちぼり外濠の水量を監視したり、泥をさらったり、石垣の崩れを修理したりするものらしい。
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかもいわがくれの裏に、どうどうと落ちたぎる水の音のすさまじく響くのは、大樋おおどいを伏せて二重に城の用水を引いた、敵に対する要害で、地下を城の内濠うちぼりそそぐと聞く、戦国の余残なごりだそうである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とおせていた目を、すぐ真下ました作事場さくじば——内濠うちぼりのところにうつすと、そこには数千の人夫にんぷ工匠こうしょうが、朝顔あさがおのかこいのように縦横たてよこまれた丸太足場まるたあしばで、エイヤエイヤと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
運河をつくり、内濠うちぼりをめぐらすなど、工事監督一切は、杜選とせんとそして陶宗旺とうそうおうの任とする。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平河門ひらかわもん、三の丸、丑寅櫓うしとらやぐらのこう三ツで、カギの手を作った内濠うちぼりの水です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)