借家しゃくや)” の例文
荷物の大部分は書物と植木であった。彼は園芸えんげいが好きで、原宿五年の生活に、借家しゃくやに住みながら鉢物も地植のものも可なり有って居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
希臘ギリシャの美術はアポロンを神となしたる国土に発生し、浮世絵は虫けら同然なる町人ちょうにんの手によりて、日当りしき横町よこちょう借家しゃくやに制作せられぬ。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
安部忠良の家は十五銀行の破産でやられ、母堂と二人で、四谷たに町の陽あたりの悪い二間きりのボロ借家しゃくやに逼塞していた。
予言 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
宮本さんじゃあるまいし、第一いえを持つとしても、借家しゃくやのないのに弱っているんです。現にこの前の日曜などにはあらかた市中を歩いて見ました。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
細田氏の宏壮なかまえの前には広い空地あきちがあって其の中を一本の奇麗な道が三十間程続いてその向うに小ぢんまりとした借家しゃくやが両側に立ち並んでいました。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
露子の銀のような笑い声と、婆さんの真鍮しんちゅうのような笑い声と、余の銅のような笑い声が調和して天下の春を七円五十銭の借家しゃくやに集めたほど陽気である。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家は通りから少し引っ込んだところにあって、二十円ぐらいの家賃をとられそうな小ぢんまりとした借家しゃくやだった。
どこの家でもその話ばかりで持ち切って、借家しゃくやなどを教えてくれるものもなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
希臘ギリシヤの美術はアポロンを神となしたる国土に発生し、浮世絵は虫けら同然なる町人ちょうにんの手によりて、日当りしき横町よこちょう借家しゃくやに制作せられぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もう周囲一尺くらいにのびているから下駄屋さえ連れてくればいいになるんだが、借家しゃくやの悲しさには、いくら気が付いても実行は出来ん。主人に対しても気の毒である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
臼木は箱崎町の貸二階を引払い、石田と二人で新大橋むこう借家しゃくやに新しい家庭をつくった。翌年常子と名づけた女の子が生れる。
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御申越の借家しゃくやは二軒共不都合もなき様被存ぞんぜられ候えば私倫敦へのぼ候迄そろまで双方共御明け置願度おきねがいたくし又それ迄に取極めそろ必要相生じ候節そろせつは御一存にて如何いかがとも御取計らい被下度候くだされたくそろとあった。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
安藤坂あんどうざかは平かに地ならしされた。富坂とみざか火避地ひよけちには借家しゃくやが建てられて当時の名残なごりの樹木二、三本を残すに過ぎない。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
忽然こつぜん安井の事を考え出した。安井がもし坂井の家へ頻繁ひんぱん出入でいりでもするようになって、当分満洲へ帰らないとすれば、今のうちあの借家しゃくやを引き上げて、どこかへ転宅するのが上分別じょうふんべつだろう。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妾宅はあがかまちの二畳を入れて僅か四間よまほどしかない古びた借家しゃくやであるが、拭込ふきこんだ表の格子戸こうしど家内かない障子しょうじ唐紙からかみとは、今の職人の請負うけおい仕事を嫌い、先頃さきごろまだ吉原よしわらの焼けない時分
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は新開町しんかいまち借家しゃくや門口かどぐちによく何々商会だの何々事務所なぞという木札きふだのれいれいしく下げてあるのを見ると、何という事もなく新時代のかかる企業に対して不安の念を起すと共に