信楽しがらき)” の例文
旧字:信樂
家康の一行が、信楽しがらきから伊賀へと向って来たときあとから追いついて来た家士の一名が、そのいましめともなる生々しい一事件を告げた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茶壺ちゃつぼ。丈一尺四分、胴巾九寸、口径四寸五分。陶器。窯は江州ごうしゅう信楽しがらき。手法は焼締め、鉄流し釉。日本民藝美術館(現在、日本民藝館)蔵。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「吉は手工しゅこうが甲だから信楽しがらきへお茶碗造りにやるといいのよ。あの職人さんほどいいお金儲けをする人はないっていうし。」
笑われた子 (新字新仮名) / 横光利一(著)
二人は堀ノ内へまわって、遅い午飯を信楽しがらきで食って、妙法寺の祖師に参詣した。その帰り路で、半七は又云い出した。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
次に六角右兵衛かみ義郷よしさとも、一時危いところであった。それはどう云う訳かと云うと、義郷の家臣に、近江の国信楽しがらきの住人多羅尾道賀と云う者がある。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
家庭の紛雑いざこざは島村氏を極度の神経衰弱に陥らしめた。氏はそれを治すためにあるとしの秋から冬にかけて、かなり長い間京都三本木ぼんぎ信楽しがらきに泊つてゐた。
まず東国においては上野こうずけ邑楽おはらき常陸ひたち茨城うばらきもそれであろうし、西にはまた近江おうみの古き都の信楽しがらきの地があり、大和には葛城かつらぎの山嶺と大きな郡の名がある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
六畳の中二階ちゅうにかいの、南を受けて明るきを足れりとせず、小気味よく開け放ちたる障子の外には、二尺の松が信楽しがらきはちに、わだかまる根を盛りあげて、くの字の影をえんに伏せる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三本木、信楽しがらき、中井氏の紹介、いかにも素人くさい、ごみごみした、楽な家なり。
伊賀を作らんと欲して窯を築く人が伊賀信楽しがらきにはあまりにも縁の遠い、横浜のMという陶家に依嘱して古伊賀の再現を期待するなど、私の口を率直に割るならば浅慮きわまるというの他はない。
東三本木の「信楽しがらき」という下宿兼旅館のようなところで過ごしました。
鴨川を愛して (新字新仮名) / 新村出(著)
茶の産地の信楽しがらきの里の春のあけぼのの景色も彼の眼底に浮んだ。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ここにまた、江州甲賀郡信楽しがらき郷にて聞いた幽霊談がある。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ですが江州ごうしゅうのもので最も注意すべきは信楽しがらきの焼物でありましょう。歴史の起りははなはだ古く、それに室町時代から茶人との縁が深かった窯であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「宇治方面は、まださして騒がしい動きも見えませぬ。あれから信楽しがらきへ出られ、伊賀へとかかれば、おそらくまだ明智勢の手は廻っておるまいかと察しられます」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は京都には全く一人も友達がなかつたので、着いた明くる日、私より一と足先に此の地へ来て三本木の「信楽しがらき」と云ふ宿に滞在してゐた長田幹彦君の所へ飛んで行つた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
真夏の暑い日ざかりを信楽しがらきの店で少し休んでいたのとで、女の足でようよう江戸へはいったのは、もう夕六ツ半(七時)をすぎた頃で、さすがに長いこの頃の日もすっかり暮れ切ってしまった。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山水の絵はもと江州ごうしゅう信楽しがらきに発したものでありましょうが、益子では明治のなかば頃から盛に描かれるに至りました。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
追いついたのは翌日の三日で、信楽しがらきの里のいぶせき山寺に、家康はつかれて昼寝していた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのために室内がもや/\とかげつて、薄暗くなつてゐる中に、信楽しがらき焼のナマコの火鉢が置いてあつて、なつかしいリヽーはその傍に、座布団を重ねて敷いて、前脚を腹の下へ折り込んで
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そもそもこの山水土瓶の歴史を顧みますと、北は相馬そうま益子ましこ、中部は信楽しがらき明石あかし、南は野間のま皿山さらやまにも及び、多くの需用があって各地で盛に描かれました。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そのために室内がもやもやとかげって、薄暗くなっている中に、信楽しがらき焼のナマコの火鉢ひばちが置いてあって、なつかしいリリーはその傍に、座布団ざぶとんを重ねて敷いて、前脚を腹の下へ折り込んで
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どの町のどの唐津屋からつやのぞいて見ても、石見のものはすくない、瀬戸、美濃みの、有田、信楽しがらき等と、他国のものが店を支配し家庭を支配する。それは石見では小ものを焼かないからである。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あの民家で用いた信楽しがらき茶壺ちゃつぼ(挿絵第二図)が、支那のいわゆる「黒壺くろつぼ」にどこが劣るだろうか。同じ支那から渡った貧しい茶入ちゃいれに美を説きながら、なぜ立杭たちくいの壺に盲目であるのか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)