低声こごゑ)” の例文
旧字:低聲
そこでは浴びる程うまい麦酒ビールを飲む事が出来た。ジヤンは酔つた紛れに変な腰つきをして舞踊をどりを踊つた。バヴアリア兵は低声こごゑで歌をうたつた。
娘共は流石に、中には入りかねて、三四人店先に腰掛けてゐたが、其家の総領娘のお八重といふのが、座敷から時々出て来て、源助さんの話を低声こごゑに取次した。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
庭師が溜息をくと、カシモードは何やら彼の耳に殊更に低声こごゑで囁き、互ひの背中を叩き合つてゐた。私はその囁きに、余程深刻な好奇心をもやしたに相違なかつた。
タンタレスの春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「伯父さんがお呼びやしてやよつて、早う行ておいなはい。」と低声こごゑに優しく言つた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
彼女等私を嗤ひます、そして低声こごゑで話し合ふ。
と文平は低声こごゑかまをかけるやうに言出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「さあ」と豆千代は当惑さうに美しい眉をしかめて利藻氏の方を見た。そして低声こごゑになつて「旦那はん、あれ狐だつしやろか、それとも狸……」
三人は時に聞き取れぬやうな低声こごゑになり、時に荒々しい喧嘩声になり、又時にはお信さんの歔欷すゝりなきの声が交つたりしたが、私の聞き得たところによると、お信さんは、今度森田が上海シヤンハイ
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
低声こごゑに言つて、口をすぼめて微笑みながら健の顔を見た。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして四辺あたりの騒々しさと掛け離れた静かな卓子テーブルりかゝつて、ちびり/\洋盃コツプふちめながら、頭を突き合はせて低声こごゑで何か話してゐた。
『誰か来たんですか?』と低声こごゑに訊いた。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
戸川氏は一しきり狸の飼養を奈良公園の当局者に勧めて置いて、急に親戚みうちにでも耳打をするやうに低声こごゑになつて
村井氏は相変らず葉巻を咥へたまゝ、夫人のあとからのつそりと店を出ようとした。するとうしろから低声こごゑ
狸退治の極意を一寸こゝにお話すると、(うか成るべく口の中で低声こごゑで読んで欲しい、さもないと狸が立聞たちぎきするかも知れないから)狸はよく雨夜あまよに出て悪戯いたづらをする。
スキンナアは汽車中の二時間ばかしで、今度の持役の台詞せりふを、すつかり記憶おぼえ込む積りで、外套の大きな隠しから台詞書せりふがきを引張り出した。そして低声こごゑでそれを暗誦あんしようし出した。
洋画家の満谷みつたに国四郎氏はこのごろ謡曲に夢中になつて、画室アトリエで裸体画の素描デツサンる時にも、「今はさながら天人てんにん羽根はねなき鳥の如くにて……」と低声こごゑうたひ出すのが癖になつてゐる。
「それはまた滅法界めつぽふかいに高い」と選挙人は椅子を擦り寄せて低声こごゑになつた。