人氣ひとけ)” の例文
新字:人気
凡そ、村で人氣ひとけのあるらしく見えるのは、此家と鍛冶屋と、南端れ近い役場と、雜貨やら酒石油などを商ふ村長の家の四軒に過ぎない。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
あつたところでございますか? それは山科やましな驛路えきろからは、四五ちやうほどへだたつてりませう。たけなかすぎまじつた、人氣ひとけのないところでございます。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
靜寂ひつそり人氣ひとけのなくなつたとき頽廢たいはいしつゝあるその建物たてもの何處どこにも生命いのちたもたれてるとはられぬほどかなしげであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
垢つきよごれたれど何となく氣高く、一人この人氣ひとけ絶えたる木立をさまよひて路を失ひながら泣きもせずいらちもせず淋しとも思はねば恐しとも思はず
花枕 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
私は、人氣ひとけのない廊下に立つてゐた。私の前には、朝食堂のドアがあつた。私は、おびえ震へながら、立ち止つた。
……ずゐぶん露地ろぢ入組いりくんだ裏屋うらやだから、おそる/\、それでも、くづがはらうへんできつくと、いたけれども、なか人氣ひとけさらにない。おなじくなんけてるのであつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人氣ひとけの絶えたかしっぷち、薄ら寂しい河岸かしっぷち。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
遠い人氣ひとけのない廊下の向うを
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
人氣ひとけのないやうな、古い大きな家にゐて、雨滴あまだれの音が、耳について寢られない晩など、甲田は自分の神經に有機的な壓迫を感じて、人には言はれぬ妄想を起すことがある。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
かつてはしんと靜まり返つてゐた廊下を行くにも、また、嘗て人氣ひとけの無かつた正面の部屋に這入るにも、いきスマートな侍女か伊達だてな從者に行き逢ふことなしには出來ないのであつた。
私は門にもたれて、羊の一匹も出てゐない、短い、いぢけた白茶しらちやけた草が生えてるばかしの人氣ひとけのない牧場を眺めた。灰色の陰鬱な日だつた。どんよりした空が「末は雪」になつて垂れかゝつた。