京畿けいき)” の例文
この話は、たちまち幾百里の山河さんがを隔てた、京畿けいきの地まで喧伝けんでんされた。それから山城やましろの貉がける。近江おうみの貉が化ける。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
余は日本を愛するが故に、日本が無趣味のくにとなり果つるを好まぬ。余は京畿けいきを愛する故に、所謂文明に乱暴されつゝある京畿を見るのが苦痛である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ここへ身を寄せる前にも、すでに十兵衛光秀は、京畿けいきのあいだから、山陰、山陽の地方など、くまなく旅して来た。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「甲府が関東の険要であるとおなじ理由によって、飛騨ひだの国が京畿けいきの要塞になるのでござる——ごらんなさい」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実に正成の本拠であった河内東条と、行宮のある吉野は、官軍の二大作戦根拠地であった。時の京畿けいき官軍の中心は言うまでもなく、正行の率いる楠党であった。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
開元の末になって、柳毅の義弟の薜瑕せつか京畿けいきの令となっていたが、東南に謫官たくかんせられて洞庭湖を舟でとおっていると、不意に水の中に碧あおとした山が見えてきた。
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
星巌は妻張氏と相携えて長崎に遊び、山陽南海の諸州を遍歴し、京畿けいきの間に吟遊すること前後二十年。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
名古屋と京都との往来も頻繁ひんぱんになって、薩長土肥等の諸藩と事を京畿けいきに共にしようとする金鉄組の諸士らは進み、佐幕派として有力な御小納戸おこなんど、年寄、用人らは退きつつあった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
気運のすで京畿けいきに衰えてゐることを悟つた者が有つたかも知れないとも云へる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
これを人身にたとうれば、陸奥むつ出羽でわはその首なり。甲斐かい信濃しなのはその背なり。関東八州および東海諸国はその胸腹、しかして京畿けいきはその腰臀ようでんなり。山陽南海より西に至ってはのみ、けいのみ
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
自分は因幡いなば伯耆ほうき出雲いずも石見いわみの兵をひきい、行く行く丹波、但馬たじまの兵も合して、一挙、京畿けいきに進み、本願寺と呼応して直ちに、信長の本拠安土をこう
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一家を挙げて秋の三月みつきを九州から南満洲、朝鮮、山陰、京畿けいきとぶらついた旅行は、近づく運命をかわそうとてののたうち廻りでした。然しさかずき否応いやおうなしに飲まされます。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
甲州の軍馬が健全なうちは京畿けいきに向って、そのほかの反信長の諸国に対しても、かならず背後の虎に、より以上な備えをしてかからなければ不安な状態にあったからである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)