京伝きょうでん)” の例文
旧字:京傳
『我楽多文庫』は第十号から京伝きょうでん馬琴種彦たねひこらの作者の印譜散らしの立派な表紙が付き、体裁も整った代りに幾分か市気を帯びて来た。
そこで、まずそれを読んだというだけでも、一手柄ひとてがらさ。ところがそこへまたずぶ京伝きょうでん二番煎にばんせんじと来ちゃ、あきれ返って腹も立ちやせん。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
光琳や芭蕉は少数向きの芸術映画、歌麿や西鶴は大衆向きのエロチシズム、写楽や京伝きょうでんは社会的な諷刺画ふううしがとでもいった役割ででもあろうか。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
わたくしはかつて歴史の教科書に、近松ちかまつ竹田たけだの脚本、馬琴ばきん京伝きょうでんの小説が出て、風俗の頽敗たいはいを致したと書いてあるのを見た。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
京伝きょうでん黄表紙きびょうしに子供のうたとして「正月がござつた。かんだまでござつた。ゆづりはにこしをかけて、ゆづり/\ござつた」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
朝帰りの威勢のいい一九いっくにはいり込まれたのを口開くちあけ京伝きょうでん菊塢きくう、それに版元の和泉屋市兵衛など、入れ代り立ち代り顔を見せられたところから
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
われ京伝きょうでんが描ける『狂歌五十人一首』のうちに掲げられしこの一首を見しより、始めて狂歌捨てがたしと思へり。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
酒飲みで遊び好きの三馬は、またよく人と争い、人を罵って、当時の有名な京伝きょうでん馬琴ばきんなどの文壇人とも交際がなかった。ことに曲亭きょくていとは犬猿の仲であった。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
橋本氏の所蔵なり(追書に橋本経亮の所蔵を見たり、そを写させしが京伝きょうでん子懇望により贈り与えたり)
私の家は商家だったが、旧家だったため、草双紙、読本その他寛政かんせい天明てんめい通人つうじんたちの作ったもの、一九いっく京伝きょうでん三馬さんば馬琴ばきん種彦たねひこ烏亭焉馬うていえんばなどの本が沢山にあった。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
京伝きょうでん種彦たねひこのいくつかの著述は先駆であって、同じ態度を一段と精透に、進めて行ったのが喜多村節信きたむらのぶよ、すなわち『嬉遊笑覧きゆうしょうらん』『画証録がしょうろく』『筠庭雑考いんていざっこう』などの著者である。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
京伝きょうでんはひょいと眼を上げた。陽あたりのいい二階の書斎で、冬のことで炬燵こたつがかけてある。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
即ちビェリンスキーの文学、ゴンチャローフの文学、ドストエフスキーの文学、ツルゲーネフの文学であって、京伝きょうでんの文学、春水しゅんすいの文学、三馬さんばの文学ではなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
京伝きょうでん一九いっく春水しゅんすい種彦たねひこを始めとして、魯文ろぶん黙阿弥もくあみに至るまで、少くとも日本文化の過去の誇りを残した人々は、皆おのれと同じようなこの日本の家の寒さを知っていたのだ。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
読本は京伝きょうでん馬琴ばきんの諸作、人情本は春水しゅんすい金水きんすいの諸作の類で、書本は今う講釈だねである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人も知る、後世京伝きょうでん先生作仕かけ文庫の世界。そこのやぐら下の置屋まつ川というのに。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
前夜画会がかいくずれから、京伝きょうでん蜀山しょくさん、それに燕十えんじゅうの四人で、深川仲町なかちょう松江まつえで飲んだ酒がめ切れず、二日酔の頭痛が、やたらに頭を重くするところから、おつねに附けさせた迎い酒の一本を
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ツマリ当時の奇人連中は、京伝きょうでん馬琴ばきんの一面、下っては種彦たねひこというような人の、耽奇の趣味を体得した人であったので、観音堂の傍で耳の垢取あかとりをやろうというので、道具などを作った話もあります。
明和年代に南畝なんぽが出で、天明年代に京伝きょうでん、文化文政に三馬さんば春水しゅんすい、天保に寺門静軒てらかどせいけん、幕末には魯文ろぶん、維新後には服部撫松はっとりぶしょう三木愛花みきあいかが現れ、明治廿年頃から紅葉山人こうようさんじんが出た。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
徳川幕府の有司は京伝きょうでんを罰し、種彦たねひこ春水しゅんすいの罪を糾弾したが、西行と芭蕉の書のあまねく世に行われている事には更に注意するところがなかった。酷吏の眼光はサーチライトの如く鋭くなかったのだ。
冬日の窓 (新字新仮名) / 永井荷風(著)