並樹なみき)” の例文
旧字:竝樹
そこでお君さんもほかに仕方がないから、すぐに田中君へ追いつくと、葉をふるった柳の並樹なみきの下を一しょにいそいそと歩き出した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
直ぐその家に眼をったのであるが、花崗岩みかげいしらしい大きな石門から、かえで並樹なみきの間を、爪先つまさき上りになっている玄関への道の奥深く
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
誰だったか独逸人を地獄へおとしたら、屹度きつと地獄と伯林ベルリンとの比較研究を始めて、地獄の道にも伯林の大通おほどほりのやうに菩提樹の並樹なみきを植付けたい。
始めとして到処いたるところ西洋まがひの建築物とペンキ塗の看板痩せ衰へた並樹なみきさては処嫌ところきらはず無遠慮に突立つてゐる電信柱と又目まぐるしい電線の網目の為めに
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
家は丁度ちやうど尾谷川に臨んだ一帯の平地にあつて、かしまばらな並樹なみきがぐるりと其の周囲を囲んで居る奥に、一むね母屋おもや、土蔵、物置と、普請ふしん尋常よのつねよりは堅く出来て居て、村に何か事のある時には
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
左右は大松おおまつ並樹なみきにして、枝を交えて薄暗きところを三町ばかりまいりますると、突当りが大門でございますが、只今はまるで様子が違いましたが、其の頃は黒塗の大格子おおごうしの大門の欄間は箔置はくおきにて
榛の木畑は、榛の木並樹なみきの土堤下に沿うた段々畑であった。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
始めとして到処いたるところ西洋まがいの建築物とペンキ塗の看板おとろえた並樹なみきさては処嫌わず無遠慮に突立っている電信柱とまた目まぐるしい電線の網目のために
はるかに続いているプラタナスの並樹なみきの間から、水色に塗られた大形の自動車が、初夏の日光をキラ/\と反射しながら、まぶしいほどの速力で、坂をけ上ったかと思うと、急に速力を緩めて
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
格子戸こうしどづくりの薄暗い家と家との間から、あるいは銀茶色の芽をふいた、柳とアカシアとの並樹なみきの間から、みがいたガラス板のように、青く光る大川の水は、その、冷やかな潮のにおいとともに
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女は、さわやかな声を残しながら、戸外のやみに滑り入った。が、自動車が英国大使館前の桜並樹なみき樹下闇このしたやみを縫うている時だった。彼女のおもてには、父の危篤きとくうれうるような表情は、あととどめていなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)