下根げこん)” の例文
浄土門の修業は末法濁乱まっぽうじょくらんの時の教えであるから、下根げこん下智のやからを器とする。これを奥州への宣旨とする。それを取り違えてはならない。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
“馴れ”だけに頼って行くのは下根げこん、理詰めに物を考えて犯人を挙げるのは中品ちゅうぼん、“勘”で行って、百に一つも間違いはないのが上々だ。
使つかひ口上こうじやうちがひまして、ついれませぬこと下根げこんのものにわすれがちにござります、よく、拜見はいけんしておぼえますやうに。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まして我々下根げこん衆生しゆじやうは、い加減な野心に煽動せんどうされて、がらにもない大作にとりかかつたが最期さいご虻蜂あぶはちとらずのたんを招くは、わかり切つた事かも知れず。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
王侯と飲むのも、乞食と飲むのも、酒の味に変りはない。相手によって味が変るのは、下等な下根げこんの奴だ。ここんところが、島村さんにはちっとも分らない。
別れの辞 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かく考えると伝統というようなことが、下根げこんの者にはどんなに有難いことか。伝統は一人立ちが出来ない者を助けてくれる。それは大きな安全な船にも等しい。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私などは育ちが下根げこんで、ぬけぬけとそうはやりきれずに、つい女々しく、イヤミッたらしく言い訳に及んでしまうテイタラクであるから、まことに敵が憎く、また口惜しいのだが
ジロリの女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
酔った。酔ったほどに、下根げこんの典膳は、「お浦、俺の云うことをけ」と云い出した。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今もかわらない人間のすがたをかえりみると、みずか下根げこんの凡夫といい愚禿ぐとくと称した彼の安心の住みかは、求めればいまでもたれの目の前にもあるのだという事実をずにいられないのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現代下根げこん衆生しゅじょうより受くる迫害の苦痛を委却いきゃくするための便法である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この蕪雑ぶざつうつも、美の訪れの場所である。そうして下根げこんの凡夫も救いの御手に渡さるる身である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
されど下根げこん衆生しゆじやうと生まれたからは、やはり辛抱しんばう専一に苦労する外はあるまいと思ふ。(十月三日)
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御新姐樣ごしんぞさまうへ御無理ごむりは、たすけると思召おぼしめしまして、のおうた一寸ちよいとしたゝくださいまし、お使つかひ口上こうじやうちがひまして、ついれませぬこと下根げこんのものにわすれがちにござります
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こうなると、下根げこんのカンの頼りなさが、はっきり呑込めます。
(早いな、われがような下根げこんな奴には、三年かかろうと思うた分別が、立処たちどころは偉い。おれを呼ぶからには工夫が着いたな。まず、褒美ほうびを遣る。そりゃ頂け、)と柿のへたを、色白な多一の頬へたたきつけた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
藝道で立つ家に取つて、下根げこんの子ほど荷厄介なものはない。