一塊ひとかたま)” の例文
やがてほかの連中も、そんな私の後から一塊ひとかたまりになって、一の懐中電気をたよりにしながら、きゃっきゃっと言って降りて来た。……
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
と、東儀と羅門とは、すぐその一塊ひとかたまりの人影をてたが、同時に、うしろで、異様な物音がしたので、はッとして振りかえって見ると
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蓄えたくわえたうっ憤を晴すためにおらびあっておしかけて来る——それであった。大工とトビの連中が一塊ひとかたまりになって松岡にとびかかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
おやとまたもそちらにひとみをそらすと、暗憺あんたんとして物色も出来ぬ中に、例のちゃんちゃん姿の三介さんすけが砕けよと一塊ひとかたまりの石炭をかまどの中に投げ入れるのが見えた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まるで伊太利の陽が、晴々とした渡り鳥の群か何かのやうに、南から一塊ひとかたまりになつてやつて來て、アルビオンのがけの上にいこつて、羽を休めてゐるやうであつた。
だがその二十人ほどは道側の生垣のほとりに一塊ひとかたまりになって、何かしゃべりながらも飛びまわることはしないでいたのだ。興味の深い静かな遊戯にふけっているのであろう。
卑怯者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
学生達は、伍長を中に一塊ひとかたまりになって茶館カフェーを出ると、銘々めいめい自分の行動に立派な理由を見出して、それにすっかり満足しながら、魔窟のある露地の方へ意気揚々と押し出して行った。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
ちょうど六月のことだったが、たびたびの雷雨に冷え冷えとした気候だった。空はどんより曇って、日の光が半ばかげっていた。低い雲が風に運ばれ一塊ひとかたまりとなって重々しく動いていた。
高山たかやまの雪ふかつもりてこほりたる上へなほ雪ふかくかさなり、時の気運きうんによりていまだこほらで沫々あわ/\しきが、山のいたゞきの大木につもりたる雪、風などの為に一塊ひとかたまえだよりおちしが山のそびえしたがひてまろくだ
ネクタイ屋の看板にしては、これはすこし物騒ぶっそうすぎる。聖公教会の門のところに、まるで葡萄ぶどうふさみたいに一塊ひとかたまりに、乞食こじきどもがかたまっている。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そこからはさらに近々と、辻にかたまっている人影までがかすかに読まれた。ちょうど松の根元を中心にして、十人ほどの一塊ひとかたまりが、霧の下にじっと槍を立てている——
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
横向にひさしを向いて開いた引窓から、また花吹雪はなふぶき一塊ひとかたまりなげ込んで、烈しき風の吾をめぐると思えば、戸棚の口から弾丸のごとく飛び出した者が、避くるもあらばこそ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが川べりの道の上にところどころ一塊ひとかたまりになりながら落ちているのがずっと先きの先きの方まで見透みとおされていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
だからこの際理論の方から這入はいれば成立し得るあらゆる歴史に通用する議論が立てられますし、またはユーゴーとか、バルザックとか云う名前で代表している作物を、一塊ひとかたまりの堅牢体で
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或る日、私はその小さな村を真ん中から二等分している一すじの掘割に、いくつとなく架けられている古い木の橋の一つのたもとに、学校帰りらしい村の子供たちが一塊ひとかたまりになっているのを認めた。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そしてその流し場に、一塊ひとかたまりの血を吐いていた……
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)