一品ひとしな)” の例文
風呂敷には、もう一品ひとしな——小さな袖姿見てかがみがあった。もっとも八つ花形でもなければ柳鵲りゅうじゃくよそおいがあるのでもない。ひとえに、円形の姿見かがみである。
右陣うじんにいる福島市松ふくしまいちまつのところへ伝令せい! ただ今、武田伊那丸たけだいなまるが見えたによって、あずけておいた一品ひとしな、そっこくここへ持参いたせと」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にぶい燈火にも根に結んだ銀丈長ぎんたけながが光っていた。壁にはいろいろなものがさげてあったが、芸妓の住居らしいはなやかなものは一品ひとしなもなかった。
「まさに一言もねえ、あの中で一品ひとしなも盗られねえのは親分だけでしょうよ、石原の親分が、煙草入をやられたのは大笑いさ」
一品ひとしな盗まれていないこと、窓その他人間の出入ではいり出来る場所は、凡て完全に戸締りがしてあって、外部から何者かが忍び入った形跡絶無なことであった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
決して代金をいただこうとは存じませんが、お言葉に甘えまして、ただ一品ひとしなの望みがございます、その一品と申しますのは、お絹様のお手許においでなさる子供を
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「唯一品ひとしな、金庫が助りました外には、すつかり焼いて了ひました」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さて、眼前がんぜんにまだ一攻ひとせめいたす桑名城くわなじょうもござるゆえ、ゆるりとお話もいたしかねるが、お迎えもうしお返しせねばならぬ一品ひとしな
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まさに一言もねえ、あの中で一品ひとしなも盜られねえのは親分だけでせうよ。石原の親分が、煙草入れをやられたのは大笑ひさ」
それでも何やや出入に面倒だったり、一品ひとしな々々ひねくっちゃあ離れられなくって、面白い時はこの穴ン中で寝て行かあ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
テーブルも、椅子も、立並ぶ仏像も、何一品ひとしな微塵も位置を変えていない。無論一つとして紛失したものはない。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
忠左衛門は、公儀への口上書を差出す時に使用する新しい白扇一つと、ほかにもう一品ひとしな、副将としての采配を帯びていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この男が雨に当てまいと大切がるのは、単にこの羽織ばかりではなく、一品ひとしな懐に入れているものがある。大きな紙入ではない。乳貰ちちもらい嬰児あかんぼでもない。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その結果は、君も想像する通り、邸内には何一品ひとしな紛失したものもないことが確められたに過ぎない。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「旦那さん、お願だから、私に、旦那さんの身についたものを一品ひとしな下んせね。鼻紙でも、手巾ハンケチでも、よ。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
諸方へわかつ遺物が、それぞれ一品ひとしな一品、紙片かみきれに贈り先の姓名をしるして一ぱい入れてあるのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから房のついた御簾みすのかかってる結構な、一品ひとしなで五十両、先刻さっきも申しましたね、格別わっしなんぞも覚えている御所車がそれッきりになったんですって、いつまでっても
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「……どうするということもございませんが、あなたさまに、後でお渡しいたす一品ひとしなをさるお人からお預りしておりますので、事のついでに、うかがって見たまででございまする」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
灰皿にも用いよう。がねがわくば、竜涎りゅうぜん蘆薈ろかい留奇とめきの名香。緑玉エメラルド、真珠、紅玉ルビイらせたい。某国なにがし——公使の、その一品ひとしなおくりものに使ってから、相伝えて、外国の註文が少くない。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いえ、なお、もう一品ひとしな
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脱落ぬかりもあるめえが、何ぞ一品ひとしな、別の肴を見繕ってよ、と仰せられる。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
燈下とうか一品ひとしな
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……時に、膳の上に、もう一品ひとしな惣菜そうざいの豆の煮たやつ。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ、ほかのものは要りません。ただ一品ひとしな。」
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
安下宿やすげしゆくさい一品ひとしなにぶつかると
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)