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かうかい
何となく
薄淋しくなつた
浪の
面を
眺めながら、
胸の
鏡に
手を
措くと、
今度の
航海は
初から、
不運の
神が
我等の
身に
跟尾つて
居つた
樣だ。
また
之から
日本まで
夫人等と
航海を
共にするやうになつた
不思議の
縁を
言葉短に
語ると、
夫人は『おや。』と
言つたまゝいと
懷かし
氣に
進み
寄る。
今度此弦月丸の
航海には
乘客の
數は五百
人に
近く
船員を
合せると七百
人以上の
乘組であるが、
其中で
日本人といふのは
夫人と
少年と
私との三
名のみ
かれのゐるところは、
江界と言つてそれはえらいところである。