した)” の例文
はじめの二、三にちは、そのおんなたいして、べつにしたしくしたものもなかったが、また、悪口わるくちをいうようなものもありませんでした。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
そればかりでなく、近頃はお萬としたしくなつて行くのを見て、お縫はそれが怨めしさに、死んで思ひ知らせようとしたに違ひあるまい
あのしたしい感じのする、其の国の娘も読み、父親も小僧も読むものであつて而も傑作である所のものは、殆んど飜訳されることがない。
よもやまの話 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
さしもになかよしなりけれど正太しようたとさへにしたしまず、いつもはづかしかほのみあかめてふでやのみせ手踊てをどり活溌かつぱつさはふたゝるにかたなりける
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
したしげにせて、かほ差覗さしのぞいて、いそ/\していふと、白痴ばかはふら/\と両手りやうてをついて、ぜんまいがれたやうにがつくり一れい
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かく緑色みどりいろ植物しよくぶつの、とく固有こゆういろで、われ/\はといへば、すぐにみどりいろおもさずにゐられないくらゐしたしいいろです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「いや、あのことか、あのことについてならば、一度足下にしたしく事情を語ろうと思っていたが、陣中、ついいとまもなかったので」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしてりとめのない事柄ことがらでも、うしてしたしくかたってりますと、私達わたくしたちあいだにはうにわれぬたのしさがこみげてるのでした。
姿いとたふとき者としたしく相かたらふさまなるかの鼻の小さき者は百合の花をしをれしめつゝ逃げ走りて死したりき 一〇三—一〇五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
もつとも、支那人しなじん麻雀マアジヤンしたしい仲間なかま一組ひとくみたのしむといふやうに心得こゝろえてゐるらしいが、近頃ちかごろ日本にほんのやうにそれを團隊的競技だんたいてききやうぎにまですゝめて
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
みのおやのこともわすれて、こゝのお二人ふたりしたしみましたので、わたしはおそばはなれてくのが、ほんとうにかなしうございます
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
他の点においてしたしく談話をする様子ようすは、わが国においてはなかなか見えないことで、このことはひとり政治にのみ関してしかるわけではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
わたしたちが、子供こどものころから、したしみなれてきた一休いっきゅうさんは、紫野大徳寺むらさきのだいとくじ、四十七代目だいめ住職じゅうしょくとして、天下てんかにその智識ちしき高徳こうとくをうたわれたひとでした。
先生と父兄の皆さまへ (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
いはく、『百くわんをさめ、萬民ばんみんしたしましめ、(九一)府庫ふこたすは、いづれぞ』と。ぶんいはく、『かず』と。
モン長 わしはもとより、したしいれにもさぐらせたれども、せがれめは、たゞもうそのむねうちに、何事なにごとをもかくして、いっかな餘人よじんにはらせぬゆゑ
斯く入り口又はまどへだてて品物のりをせしは同類どうるいの間ならざるがゆえならん。コロボックル同志どうしならばしたしく相對してことべんぜしなるべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
そのためか、いまでは以前いぜんちがつて、まあ普通ふつう小舅こじうとぐらゐしたしみはあるとしんじてゐるやうなものゝ、んな場合ばあひになると、つい實際じつさい以上いじやうにもまはして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、いまでは、そのはんたいに、アラシ夫婦ふうふはノロ公にたいして、いくらかしたしみをもつようになっていました。
もし私がしたしげな言葉をかけでもしようものなら、若し親しい感情があなたを、再び私の方に傾けでもしようものなら、あなたはかう云ふだらう
ソログーブはおさなときからはは奉公先ほうこうさきやしきで、音楽おんがく演劇えんげきなどにしたしむ機会きかいち、読書どくしょたいするふか趣味しゅみやしなわれた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
その事実をしるさんに、外国公使中にて最初さいしょ日本人にしたしかりしは米公使タオンセント・ハリスにして、ハリスは真実好意こういを以て我国わがくにに対したりしも
したしげに金之助きんのすけさんのこえわりはなかった。しかし袖子そでこはもう以前いぜんおなじようにはこのおとこけなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうしてこういうことが、自己じこ天職てんしょくからみてもかえってとうといのじゃないかなど考えながら、ますますになって農民にしたしむことをつとめた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その下の田の土の色、くろの草の色——是等は他の季節に見る事の出來ないしたしみ、なつかしみを藏してゐる。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
やまとしまといふのは、天皇てんのう御領地ごりようちあるひは、自分じぶんしたしいくにのことを、しまといつた時代じだいに、やまとのくにあるひは、畿内きないくにをさして、やまとしまといつたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
したしくこの出来事を見聞した者の感を深め信心を新たにしたことも、誠に当然の結果のように思われる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
妾の容子ようすの常になくつつましげなるに、顔色さえしかりしを、したしめる女囚にあやしまれて、しばしば問われて、秘めおくによしなく、ついに事云々しかじかと告げけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
したしく、心の中でよびかけたつもりなのに、まるでそれが聞こえたかのように、小ツルがよってきた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
風景にしてもくづれかかつた街だとか、その街にしても他所他所よそよそしい表通よりもどこかしたしみのある
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
一〇〇したしきをはかるべきのりにもたがひて、筆の跡だもれ給はぬ叡慮みこころこそ、今はひさしきあたなるかな。
かれいきほなにかにあたらさうとするのにおつぎと與吉よきちとにたいしてはあまりにふかしたしみをつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
友人いうじんいはく、我がしたしき者となり村へ夜話よばなしゆきたるかへるさ、みちかたはら茶鐺ちやがまありしが、頃しも夏の事也しゆゑ、農業のうげふの人の置忘おきわすれたるならん、さるにてもはらあしきものはひろかくさん
忍びたる不忠ふちう不義ふぎ曲者くせものなり又汝等が兄喜内は善惡ぜんあく邪正じやしやうわかちなくしたしきを愛しうときをにくまことに國をみだすの奸臣かんしんなる故我うち取て立退たちのきしを汝等は愚昧ぐまいなれば是をさとらず我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
までたかくはないが、骨太ほねぶと肉附にくづきい、丸顏まるがほあたまおほきなひとまなじりながれ、はなたかくちしまり、柔和にうわなか威嚴ゐげんのある容貌かほつきで、生徒せいとしたしんでました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わたしもこのあひだ、スペインのアルタミラの洞穴ほらあなつてしたしくそのることが出來できたのでありますが、それはのろ/\としたをかいたゞきにちかちひさなくちひらいたあなであつて
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
姉御とは本當は姉御前あねごぜの尊稱で、とは敬ししたしんだ呼び名ゆゑ、母御前はゝごぜとおなじに、よばれて嬉しい名でなければならないのを、きやん(侠)な呼名に轉化してしまつて
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
何年ねかして置くかしれないものを、まあいわば、永年の御したしずくでいただくんですから。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
武村兵曹たけむらへいそうこの將來しやうらい非常ひじやう有望いうぼう撰手せんしゆであるとかたつたがたゞ野球やきゆうばかりではなくかれ※去くわこねんあひだ櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ嚴肅げんしゆくなる、慈悲じひふかしたしく薫陶くんとうされたこととて
もちろん彼には何んのために、獣達がしたしみを見せるのか、かいすることが出来なかった。しかしそれらの獣達に、害心のないことは見て取られた。彼は憤然と飛び上がった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こちらが猫を抱いてみせたり、途中であった人に、親がまずしたしみの心を満たし、落ちついたよい応待をしぜんにみせることができたり、そのとき一緒につれていた子供について
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
読売の巴里パリ特派員松尾邦之助くにのすけ氏の日本の美術雑誌通信でもしたしく見聞きしてうれしい。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もつとしたしいひととなるといふことも、らずの人としてをはることも、たいした變化かはりがないのだ、とおもふと、まちはなんとなく、すべてがつまらないやうながしてるのであつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
「あなたは狸さんですね。約束を守ってほんとによいことをして下さいました。村のお宮が綺麗なのは何よりも気持ちのいいものです。これから長く、村の人達としたしくして下さい」
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この世は唯だ夢とのみ訳もなく嗟嘆さたんせしむるものことごとくわれにはしたし、われにはなつかし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おもほえず長崎に来てゆたけき君がこころにしたしみにけり(永山図書館長に)
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
『四かいいへとする』ほどのひろ心持こゝろもちもない。國語こくご風俗ふうぞく人種じんしゆとの關係上くわんけいじやう世界せかいらゆる國民こくみんらゆる人種じんしゆたいして、『一視同仁しどうじん』といふほどの、まつたおなしたしみをかんるとはへない。
その黒ん坊と特別にしたしくしていたのは、そまの源兵衛という男であった。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれは、みづかまもることにおごそかなもとめの孤壘こるゐあねたいするおとうとのやうなしたしさをみせてちかづいてつた。かれ彼女かのぢよよりも二つばかり年下とししたなのであつた。いつのにかぱつと二人ふたり關係くわんけいうはさにのぼつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
そういいながら、八ねんあいだなれしたしんだ保名やすなにも、子供こどもにも、このすまいにも、わかれるのがこの上なくつらいことにおもわれました。さんざんいたあとで、くずがって、そこの障子しょうじの上に
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
したしく御覧になりましたとおり、あの巨人のようなロスアンゼルス以下の飛行船も、ボーイング、カーチスの優秀飛行機も、ボール紙が燃えるように一瞬の間に焼け落ちてしまったのでございます。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)