まっ)” の例文
強右衛門は、その跫音が遠く去ると、柵を躍って、まっしぐらに駈け出した。敵陣、敵地、どこをどう駈けたか、自分でも分らなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雑兵輩ぞうひょうばらささえに懸けかまうな。二陣、三陣、まっしぐらに踏みこえ、ただ八幡の森を目がけよ。彼処かしこにこそ、信玄の本営はあるぞ」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まっしぐらに外まで駈け出しました。どなたも、いたくお疲れのていゆえ、安全なところで、しばしお水などさしあげておりまする
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足軽といい、士といい、みな兜の前を俯伏うつぶせて、弾も矢も思わず、まっしぐらに、わあアっ、どどどどっ——と駆けた。そしてぶつかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてまっしぐらに一つの道を突き進む。——するとまた、三年目か四年目に、行止りの壁につき当って、無為の病にかかってしまう。……
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわゆる七花八裂の惨状を浴び、あれよというまに、謙信はすでに、今暁こんぎょうから偵知していた信玄の中軍へ向ってまっしぐらに駆け込んでいた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、彼は妻の苦衷くちゅうをさまざまに考えてみた。——然し、そう思い惑うよりも、妻の希望のぞみに向って、まっしぐらに進むべき自分の重荷をすぐ感じた。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真っ暗な風の中を、まっしぐらに駈けてゆく白い足と、うしろに流れる髪の毛とは、魔性ましょう猫族びょうぞくでなくて何であろう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まっしぐらに武蔵は山沢さんたくへ入りこむ。彼が山の中にこもってどういう生活をやっているか、それは彼が山から里へ出て来るすがたを見るとほぼ察しがつく。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺部へ寺部へとまっしぐらに前進するうちに、味方さえ知れぬほど迅速に、熱田街道から横道へれて、そこにひそんでいた松平元康の旗下きか約四百の兵と
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、云いながら、続くものがあろうとなかろうと、それはこころにもかけず、まっしぐらに敵のなかへ駈けこんで行った。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さもあらば何の評議やり申さん。ただまっしぐらの道ひとつ。斎藤どのならずとも、死に遅れはせぬ。のう各〻
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心の中から、お通の幻影を蹴とばして、そしてそれからのがれ去るように、彼はまた、まっしぐらに駈けていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と見た大高源吾は、書院からまっしぐらに助けに来た——。何者とも分らなかったが、その途中、襖の蔭から
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふり向くと、やかたの建物は黒けむりにつつまれている。それへ向って、彼がまっしぐらに駈けるのを見ると、団平八、桜木伝七、服部小藤太はっとりことうたなども、あとをしたった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と一語、麾下きかの士を励ますや、自身、旗、馬簾ばれんなどの先に立ってまっしぐらに、麓口ふもとぐちへ駈け降りていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰か、またも一人の味方が、瀬兵衛の馬の口を曳ッぱって、まっしぐらに、とりでの内へと走っていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵が、足を大地から離して、舟の人となったかと見えた途端に、何思ったかお通が、水へ向って、まっしぐらに駈け出したので、城太郎は、もしやと直ぐ気をまわして
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、この年の晩春、あの大和やまと柳生の庄をまっしぐらに去ってから——今日までのおよそ半年の間を、決して、無駄には送っていなかったと、武蔵は光陰に対して恥なく思った。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
苦しまぎれに、あの純な気持を裏切って、隙を作って、自分はまっしぐらに走ってしまった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こわし大工も同じことで、壊すことには、まっしぐらじゃが、建てることはようせぬ男よ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう先祖以来の大欅おおけやきに囲まれた家の外へ走り出して、千曲川の上流に沿う断崖きりだしの道を——その故郷ふるさとの少年頃から馴れた道を——奔流の流るる方へと、ただまっしぐらに、顧みもせず
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長は、味方の強者つわものが、自分のそばを追い越して、まっしぐらに行く姿を見ると云った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのままつるをきって放ったように、風を起してまっしぐらに駈け出してしまう。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が、松平家の鋲門の前を、とつおいつして迷っている頃、早くも、芝田村町の角を曲った京極家の家臣七騎は、閃々せんせんたる手槍、抜刀ぬきみの片手綱で、愛宕を指してまっしぐらに飛ばして来ている。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
礼をいういとまもないし、再会の約束もいい出せなかった。何という淡々とした姿だろう。——武蔵は、そのうしろ姿を、じっと見つめていたが、何思ったかいきなりまっしぐらに追い駈けて行って
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、なすもののように、表御堂や客殿をさしてまっしぐらに駈け進んだ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青雲にあこがれる壮気と覇気——また潔癖に似たまっしぐらな道心が、火が水をはじくように、女性の情を反撥したに過ぎなかったが、今の武蔵には、元来の野性が、徐々と智育されてくるにつれて
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朱実の影でも見つけたのか、突然、まっしぐらにどこかへ駈け去った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、まっしぐらに、その殻を蹴やぶって出たつもりではなかったか。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城太郎を捨てて、突然、まっしぐらに走り出した。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)