えば)” の例文
勢い兄の欲しがる金をえばにして、自分の目的を達しなければならなかった。結果はどうしても兄をらす事に帰着した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蝮は興奮の薬力ある物か。予が知る騎手など競馬に先だち、乾した蝮の粉を馬にえばうと、甚だ勇み出すといった。
うむ、解るまいと思って人の聞くのもはばからず、英語ですっかり白状した。つまり百円をえばにしてみんなを釣ったのだ。遺失おとしたもないものだ、時計は現在持っている。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蝶よ花よと育てた愛女まなむすめが、堕落書生のえばになる。身代をぎ込んだ出来の好い息子が、大学卒業間際に肺病で死んで了う。蜀山しょくさんがした阿房宮が楚人そびと一炬いっきょに灰になる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
同時にこういううちの一人娘は今頃周旋屋しゅうせんやえばになってどこぞで芸者でもしていはせぬかと、そんな事に思到おもいいたると相も変らず日本固有の忠孝の思想と人身売買の習慣との関係やら
「その釣り落す罠とやらんは、かねてより聞きつれど、某いまだ見し事なし。怎麼いかにして作り候や」「そは斯様々々かようかようにしてこしらへ、それにえばをかけ置くなり」「してかれが好む物とは」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
つまらないやら情けないやら今游ぐならば手足すくみてそのまま魚のえばともなりなん。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
汝ら敵の戰利またえばとなることなからずや?
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
大方蝉をついばもうとしてからすはそのえばを追うて梢から梢にと飛移ったに違いない。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「狐を釣るにねずみ天麩羅てんぷらを用ふる由は、われ猟師かりうどつかへし故、とくよりその法は知りて、わなの掛け方も心得つれど、さてそのえばに供すべき、鼠のあらぬに逡巡ためらひぬ」ト、いひつつ天井を打眺うちなが
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
三昼夜麻畑の中に蟄伏ちっぷくして、一たびその身に会せんため、一りゅういいをだに口にせで、かえりて湿虫のえばとなれる、意中の人の窮苦には、泰山といえども動かでむべき、お通は転倒てんどうしたるなり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恐るゝ豺は逃れ去り、大鹿獅子のえばとなる。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
取るを許さず、貪婪の獸はえばにあこがれて
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)