風通ふうつう)” の例文
といいながら、地味じみ風通ふうつう単衣物ひとえものの中にかくれたはなやかな襦袢じゅばんそでをひらめかして、右手を力なげに前に出した。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
風通ふうつうか小紋ちりめんのようなものらしい着附を着ているおさんの顔だちが、人形ながら何処か小春に比べるとさびしみが勝ってあでやかさに乏しいのも
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
風通ふうつうあわせぐらいは奮発にあずかれるかも知れないという、内々の当込あてこみがフイになってはたまらない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
するうちに、奥の暗い部屋でしで弄花はなが始まった。主婦は小肥りに肥った体に、繻子しゅすの半衿のかかった軟かいあわせを着て、年にしては派手な風通ふうつう前垂まえだれなどをかけていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
青白い、神経質らしい、その仲間でのインテリ夫人おくさんだった。薄い髪の毛を上品に、下の方へ丸めた束髪で、白っぽい風通ふうつうか小紋ちりめんを着て、黒い帯をしめ、金歯が光っていた。
お京はお高僧頭巾こそづきん目深まぶか風通ふうつうの羽織着ていつもに似合ぬなりなるを、吉三は見あげ見おろして、お前何処どこへ行きなすつたの、今日明日は忙がしくておまんまを喰べる間もあるまいと言ふたでは無いか
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
楽しき粗布あらぬに引きかえて憂いを包む風通ふうつうたもと恨めしく——
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
き目の方もたしかなものでげしてな、この風通ふうつうと、このお召と、それから別にお小遣こづかいが若干……
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
きやうはお高祖頭巾こそづきん眉深まぶか風通ふうつう羽織はおりいつも似合にあはなりなるを、吉三きちざうあげおろして、おまへ何處どこきなすつたの、今日けふ明日あすいそがしくておまんまべるもあるまいとふたではないか
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「風流——風通ふうつうの間違いだろう、風通の一枚もこしらえたいが、銭がねえというところだろう」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)