難癖なんくせ)” の例文
さそはれるともなく、平次も飛出しましたが、その時は、もう二人の浪人は旅籠屋に難癖なんくせをつけて、何處ともなく立去つた後でした。
弘化元年三月二十五日辰の刻生れまで言われてしまったのでは、戸籍役人としても、このうえ難癖なんくせのつけようがないではないか。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「お助け下さいまし、今あちらで、投扇興をしておりますと、廊下を通りかかった悪いやつが、その扇がぶつかッたと、お嬢様に難癖なんくせをつけて」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを覚らない人は不知不識しらずしらず現代の生活から孤立して、偏したり、僻んだり、なんでも新しい世態に難癖なんくせを附けたりする保守気質の人になつて仕舞ふ。
台風 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
要するに難癖なんくせだから、喬之助は、おとなしく平伏したまま無言でいた。で、いくらこっちばかり一人で怒っても、相手が黙り込んでいるのでは、喧嘩にならない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と言って、私はマネット先生に何も難癖なんくせをつけるんじゃありません。ただ、あのかただってああいうお嬢さまにはふさわしくないということだけを別にすればですがね。
いか銀が難癖なんくせをつけて、おれを追い出すかと思うと、すぐ野だ公がかわったり——どう考えてもあてにならない。こんな事を清にかいてやったら定めて驚く事だろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
進級生たちに何かと難癖なんくせをつけて見たいだろうし、その進級生全部の犠牲になって槍玉やりだまにあげられたのは清国留学生の周さんだ、と言えない事もない状態であったのである。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すると親爺は俺はそんなことを云った覚えはないと真顔で否定した。おかみさんも「この人はとてもがらが悪いんですよ。新聞を取らないからって難癖なんくせをつけに来たんです。」
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
会社へつけばオイ子供お茶をもてなど威張り返つてお湯がぬるいなど難癖なんくせをつけ忽ち生涯の禍根をつくり、さて又相好くづして恋人の手を握つたりセンチなシャンソン唄つたり
総理大臣が貰つた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「あなたは頭が悪いのね。そういう難癖なんくせのつけ方は、何といってもフェアじゃないわ」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何とか難癖なんくせをつけては、わざと、新聞を届けるのを遅らせたりなんかするのであった。
才次は宗旨などどうでもいいので、妹が友だちの耶蘇信者が女学校で死んだ時の儀式の様子を話すのを難癖なんくせをつけずに聞いていたが、やがて、さっき言おうとしたことに話を戻して
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
それをあぶながり、または難癖なんくせをつけるような、老成人風の批判ならば、まだ幾らでも出てくることと思うが、私だけは国の学問の前途のために、そういう消極主義にみしたくない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この間も寛畝を好きだという人が印譜から写真にしたものやら持ってきて、較べてみていたが、しまいにこの寛畝の畝の字に疑問な点があるとか言って難癖なんくせをつけて、それでおじゃんさ。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
ある人々はめずらしく早く起きると朝焼けの茜色あかねいろ難癖なんくせをつけるかもしれない。
立派に布施ふせも置いて帰ろう、しかし、正面から僧の前へ出しては、た何とか難癖なんくせをつけて押し返されないとも限らないので、布施は今の内に出して置いて、僧が帰り次第に帰ろうと思った。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これはイエスの言を曲げ、言いもしなかったことを言われたようにあざむいたのです。彼らはイエスを滅ぼすことを目的としているのだから、有ったこと無かったこと、いかようにでも難癖なんくせをつける。
そこで、劉は張と連れ立ってその催促にゆくと、彼はそれを素直に支払わないばかりか、種々の難癖なんくせをつけて逆捻さかねじに劉を罵りました。劉は黙ってそのまま帰って来ましたが、あとで張に話しました。
難癖なんくせをつけて追出すことを考へた、——賣女根性ばいたこんじやうの——江戸一番の性惡娘を、この錦太郎に押し付け、嫌應いやおう言はせぬ祝言させようといふのは、皆んなそのためだ。
たまに正直な純粋じゅんすいな人を見ると、っちゃんだの小僧こぞうだのと難癖なんくせをつけて軽蔑けいべつする。それじゃ小学校や中学校でうそをつくな、正直にしろと倫理りんりの先生が教えない方がいい。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このれがましい、大講会だいこうえ広前ひろまえで、かたく、やくをむすんだ試合しあいながら、さまざまに難癖なんくせをつけたあげく、そのうらをかいて、咲耶子さくやこのすがたをかくしてしまうという言語道断ごんごどうだんおこないを
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
負けたがゆえにのないところへ理をつけた難癖なんくせである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)