とり)” の例文
「また、狐が出て来ました。宗ちゃんの大好きなとりを喰べてしまったんですって。恐いじゃありませんか。おとなしくなさい。」
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
よくるとハコべのわかいのだったので、ア、コリャ助からない、とりじゃあ有るまいし、と手に残したのを抛捨なげすてると、一同みんながハハハと笑った。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
路も縦横に開けて、とりや犬の声もきこえる。そこらを往来している男も女も、衣服はみな他国人のような姿であるが、老人も小児も見るからに楽しそうな顔色であった。
うちとりが鳴く、うちとりが鳴く、といふ子供の聲が耳に入つて眼を覺した。起つて窓外を見れば、濁水を一ぱいに湛へた、我家の周圍の一廓に、ほの/″\と夜は明けて居つた。
水害雑録 (旧字旧仮名) / 伊藤左千夫(著)
「そりやさうにもなんにもよ、他人たにんでせえこんでやつけえ言辭ことばでもけられつと、あとぢやしくるやうなものでも料簡れうけんにもなるもんだかんなあ」おつたはういひながら先刻さつきからとりとやしたる二へうたわら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
李はとりの鳴くのを聴いて仿※ほうこうとして帰って往った。
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
はるもやゝとり蹴爪けづめ牡丹ぼたんの芽 磊石
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
とりあひるが落ち合うて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
見しらぬとりたか
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
竹構たけがまえの中は殊更に、吹込む雪の上を無惨に飛散とびちとりの羽ばかりが、一点二点、真赤な血のしたたりさえ認められた。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
その頃にはもう早いとりが啼いていた。主人をはじめ家内の者どもが燭を照らして駈けつけて見ると、床には幾個の死骸が横たわっていた。それをひと目見て、人々はおどろいて叫んだ。
の花や落米つつおを拾ふとりの声 里東
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
二つのとりのすがたこそ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
狐がお屋敷のとりをとったんでげすって。御維新此方このかたア、物騒でげすよ。お稲荷様も御扶持放ごふちばなれで、油揚のにおい一つかげねえもんだから、お屋敷へ迷込んだげす。わけわせん。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
暫くしてとりの声がきこえると、諸客は起きた。三娘子はさきに起きて灯をともし、かの焼餅を客にすすめて朝の点心てんしんとした。しかし趙はなんだか不安心であるので、何も食わずに早々出発した。
二つのとりの目もくるひ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)