雑沓ざつたふ)” の例文
旧字:雜沓
ドオモの前の広場には伊太利イタリイ皇帝としての奈破翁ナポレオンの騎馬の記念銅像があり、其処そこが各所に通ずる電車の交叉点だけに人と車で雑沓ざつたふを極めて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
先刻さつきから三人四人と絶えずあがつて来る見物人で大向おほむかうはかなり雑沓ざつたふして来た。まへまくから居残ゐのこつてゐる連中れんぢゆうには待ちくたびれて手をならすものもある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
外の世界は今雑沓ざつたふ喧騒けんさうとにたされてゐる。併しこゝの事務所はひつそりして倦怠けんたいと無為とが漂つてゐる。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
避暑客の込合ふ季節なので、停車場は可也かなり雑沓ざつたふしてゐたが、さうして独りで旅をする気持は可也心細かつた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
池袋の駅で富岡に別れたが、富岡はすぐ雑沓ざつたふの中へまぎれ込んで行つた。ゆき子は心細い気がして、暫くホームの柱にもたれて、電車から吐き出される人や、乗り込む人の波をみつめてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
それに引き替へ革命軍事成功祝賀会の準備で雑沓ざつたふしてゐた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
秋の日曜日の雑沓ざつたふを恐るる象
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
いつの掃除さうぢをしたものか朝露あさつゆ湿しめつた小砂利こじやりの上には、投捨なげすてたきたな紙片かみきれもなく、朝早い境内けいだいはいつもの雑沓ざつたふに引かへてめうに広く神々かう/″\しくしんとしてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
十時に物産会社から特に出してれるランチに乗る迄には四時間以上もあるので、四馬路スマロの方へ掛けて雑沓ざつたふの中をぶらぶらと彷徨うろつき廻つたが容易に時間は経たない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
自分は西班牙スペインの闘牛場の絵を観る様な気持で、其れ等を眺めて通つた。どの街も雑沓ざつたふして居たが王宮の内庭うちにはを横断してステフワンへ抜けるあひだことに甚だしかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
とよは乗つて来た車から急に雷門かみなりもんりた。仲店なかみせ雑沓ざつたふをも今ではすこしもおそれずに観音堂くわんおんだうへと急いで、祈願きぐわんこらしたのちに、お神籤みくじを引いて見た。古びた紙片かみきれ木版摺もくはんずり
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)