雁鍋がんなべ)” の例文
場所ところ山下やました雁鍋がんなべの少し先に、まが横丁よこちやうがありまする。へん明治めいぢ初年はじめまでのこつてつた、大仏餅だいぶつもち餅屋もちやがありました。
そのいくさのあるという上野の山下やました雁鍋がんなべの真後ろの処(今の上野町)に裏屋住まいをしている師匠の知人のことに思い当ったのであります。
それは有名な「雁鍋がんなべ」である。それから坂本の方へ来ると、或る鳥屋の屋根に大きな雄鶏の突立つた看板がある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
……『雁鍋がんなべ』の屋根に飛んでいた漆喰しっくい細工の雁のむれを、不忍から忍川の落込むきわの「どん/\」の水の響きを、ああ、われわれはいまどこにもとめよう。
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
枳園はしばしば保を山下やました雁鍋がんなべ駒形こまがた川桝かわますなどに連れて往って、酒をこうむって世をののしった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
名を聞いただけでも空腹すきばらへキヤリと応える、雁鍋がんなべの前あたりへ……もう来たろう。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雁鍋がんなべの前へ来た時に、見たような人がその店から出かけたのに気がつきました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
迷亭にがんが食いたい、雁鍋がんなべへ行ってあつらえて来いと云うと、かぶこうものと、塩煎餅しおせんべいといっしょに召し上がりますと雁の味が致しますと例のごとく茶羅ちゃらぽこを云うから、大きな口をあいて
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最初は女がそのほうになびいていっしょに雁鍋がんなべもつつき、向島の屋台船で大いに涼しい密事みそかごともなんべんとなく繰り返していたのに、年のいったのもまた格別な味といわんばかりで、もう五十を過ぎた
雁鍋がんなべへ行こう。」
夢のお七 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから松源まつげん雁鍋がんなべのある広小路、狭いにぎやかな仲町なかちょうを通って、湯島天神の社内に這入はいって、陰気な臭橘寺からたちでらの角を曲がって帰る。しかし仲町を右へ折れて、無縁坂から帰ることもある。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
お絹はワザワザ自身に立って玄関のふすまの隙から表を見ると、先日の夕方、がんりきの百蔵とむつまじそうに山下の雁鍋がんなべから出て来たお角でありましたから、また居間へ帰って、わざととりすまして
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから百蔵がお角を連れて、山下の雁鍋がんなべへ来て飲みながらの話
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)