際涯さいがい)” の例文
鶴見は海と共に際涯さいがいもない感情を抱いてその画を丹念に見返し見返ししている。波と岩との争闘のほかに火と海との相剋がそこにある。
郊外かうぐわい際涯さいがいもなくうゑられたもゝはなが一ぱいあかくなると木陰こかげむぎあをおほうて、江戸川えどがはみづさかのぼ高瀬船たかせぶね白帆しらほあたたかえて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「なに出発ですか。……連れていって下さい。どこでも構いません。地獄の際涯さいがいでもどこでも恐れやしません。ぜひ連れてって下さい」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
運命の限界げんかいがそこにあり、そのひとすじの河によってさえぎられた人生の行手には唯、際涯さいがいもなくひろがる無があるだけである。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
三月から四月への、坂東一帯の春の野のうららかさは言語に絶える。自然美の極致を、際涯さいがいなき曠野の十方にひらくのである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこは、見渡すかぎり、際涯さいがいもない大海原おおうなばらのまっただなかであった。ありえないことが起こったのだ。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
気宇凜然りんぜんとして山河を凌銷りょうしょうし、万象瑩然えいぜんとして清爽せいそう際涯さいがいを知らずと書物には書いてあります。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
哲理深奥にして際涯さいがいなきが如き処おおいに我心をきたるなり。やや長じて常識を得るに及んで、未だ哲学を学ばず、先づ人智の極まる所、哲理の及ぶ所を見、自ら画していわく知るべきのみと。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
又た学問復興の大思想家と人の言ふなるベーコンが「哲学遂に際涯さいがいするところあらざるべし」と戯れたるも、畢竟ひつきやうするに甚深甚幽なる人間の生涯をいかんともすべからざるが為めならんかし。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
四辺は広く際涯さいがいを見ず、ただ蒼々茫々と蒼白い光に照らされている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はてしない際涯さいがいは自分のラヴアだ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
そこにはまだ源氏のともがらが多くいるという。また、富士山があって、駿馬しゅんめが多く産まれて、野は際涯さいがいもなく広いという。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時にまた、彼は、家の裏の楽山へ登って行って、渺々びょうびょう際涯さいがいなき大陸を終日ながめていた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この際涯さいがいのない山中を数日歩き迷っているという事は、嘘ではないかも知れません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)