階梯かいてい)” の例文
なにを階梯かいていとしてこれにのぼり得べきや。曰く、実験と論究との二者なり。この二者は、物心二大臣より理想の朝廷へ差遣する使節なり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
もしその正成に、他日への野望があり、また当初の“笠置出仕かさぎしゅっし”の腹が、栄達への野心であったら、それへ登る階梯かいてい
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明治四十三年八月の水害と、翌年あくるとし四月の大火とは遊里とその周囲の町の光景とを変じて、次第に今日の如き特徴なき陋巷ろうこうに化せしむる階梯かいていをつくった。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
外交の事迫るや、その出来事を朝廷に奏聞せり、奏聞するは則ち勅裁を仰ぐのぜんなり。和戦の議を諸侯にはかれり、諸侯に諮るは、諸侯に左右せらるるの階梯かいていなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この驚くべき奇怪な現象を理解するには、まず、呉一郎と呉青秀とがどんな順序で入れかわって行ったかという、その精神病理的の階梯かいていから明かにして行かねばならぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この第一影像を一つの階梯かいていとして洗練に洗練を重ねた上で付け句ができあがるべきはずである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
幾多の類型と階梯かいていがあるが、種々な場合に現われた事実を総合すると、どうもこのジャックは、狂人どころか普通人、あるいはそれ以上の明識レイションあるものとしか思えないのだ。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
要するに彼ぐらいの年輩の青年が、一人前の人間になる階梯かいていとして、おさむべき事、つとむべき事には、内部の動揺やら、外部の束縛やらで、いっさい手が着かなかったのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さういふことが児童精神発育の階梯かいていとなる。弟の方の孫が一々その模倣をする。
(新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「助かったら何よ、おいらがやしきへ来ねえ、一所に楽をしようぜ、面白く暮そうな。」と、あたかも死をかけものにしたこの難境は、将来のそのたのしみのために造られた階梯かいていであるように考えるらしく
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は大理石で張詰めた壁に沿って、コルク張の階梯かいていを軟かく踏んで二階へ急いだ。彼女はエレベーターで天上でもしたのか、此処にも姿は見出せなかった。彼は本気に慌てて三階へ駈け昇った。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
正面の石段を登ると、細いバンドのようにかんぬきのついた木扉が両方に開いて、前房ヴェルチビュルは薄暗い。一方には二階の明るさをおもわせる、やや急傾斜の階梯かいていがかっちりと重々しく落着いた階段を見せている。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こうして生物の階梯かいていのあいだのすべての隙間はうずめられるのである。
夜の外出には提灯ちょうちんを持ってゆかなければならない。月夜というものは提灯のらない夜ということを意味するのだ。——こうした発見は都会から不意に山間へ行ったものの闇を知る第一階梯かいていである。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
彼は自分の生涯しょうがいの全体を一連の階梯かいていとして見渡した……。
これらや予が自然に入るの階梯かいていなりしならん。
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかして、よくこの地位に達するには、必ず多少の練習を要するなり。内観法の一は禅学なるが、禅学を修むるにはまたすでに一定の方法、階梯かいていあり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そして彼が義元の帷幕いばくに参じてから、今川家の国勢は急激に膨脹ぼうちょうした。覇業の階梯かいてい徐々じょじょに踏んで来たのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浮世絵の板画が肉筆の画幅に見ると同じき数多すうたの色彩を自由に摺出すりいだし得るまでには幾多の階梯かいていを経たりしなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
スミスにとってはすでに殺人手続の一階梯かいていになっていた。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
つまり、今はその階梯かいていだと、すばらしい気焔をあげて、周馬やお十夜の欲望のあまりに小さいことを冷笑した。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しからざれば、有限性の名称を階梯かいていとして、その裏面に包有せる無限性を感知領得することをつとむべし。
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
真正なる孔孟の教を知らんとするにはまず宋儒の説を排斥し唐以前かんの古文について研究すべきである。この研究にはまず古文を読むべき階梯かいていとして古文辞を修めなければならない。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
事実、婆羅門僧の修行には四つの階梯かいていがある。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「そも、おのおのは、入壇とか、授戒とかいうことを、俗人が、位階や出世の階梯かいていでものぼるように、考えていられるのではないか、とんでもない間違いでおざる」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これらは実に僅少なる一、二の例証のみ。余は甚しくいきどおりきまた悲しみき。然れども幸ひにしてこの悲憤と絶望とはやがて余をして日本人古来の遺伝性たる諦めの無差別観に入らしむる階梯かいていとなりぬ。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
歴史をかえりみると、或る到達の階梯かいていには、いつも二つの対峙という過渡期がある。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これらは実に僅少きんしょうなる一、二の例証のみ。余ははなはだしく憤りきまた悲しみき。然れども幸ひにしてこの悲憤と絶望とはやがて余をして日本人古来の遺伝性たるあきらめの無差別観にらしむる階梯かいていとなりぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)