間遠まどお)” の例文
間遠まどおに立っている七、八軒の家の前を過ぎた。どの家も人がいないように岑閑しんかんとしていた。そこを出抜けるとなるほど寺の門が見えた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
間遠まどおに荷車の音が、深夜の寂寞せきばくを破ったので、ハッとかくれて、籐椅子とういすに涼んだ私の蔭に立ちました。この音は妙に凄うございました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
船の通いの間遠まどおにして年々続き、風待ち日和ひより待ちの長かった日本海側の湊場みなとばなどで、こういう女性の利用せられたことはいうまでもない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
七里の渡しというのは、この尾張の国の熱田から伊勢の桑名の浜まで着くところ、いにしえのいわゆる「間遠まどおの渡し」であります。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのわななきはいよいよ間遠まどおになって、ついに、はっきり明けはなれた一日の、ものみなゆめをさます疑いもない光にひたされて消えてしまった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
遠くの部屋でディフテリヤにかかっている子供の泣く声が間遠まどおに聞こえるほかには、音という音は絶え果てていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
雪之丞が、間遠まどおに見て、歯を噛んでいるうちに、又もや、斬り抜けた闇太郎、結句けっく、またも、多勢にかこまれて、身じろぎに、不自由を覚えて来た容子ようす——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
五日の月はほんのりと庭の白沙はくさを照らして、由比ゆいはまの方からはおだやかな波の音が、ざアーア、ざアーアと云うように間遠まどおに聞こえていた。それはもうこくに近いころであった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼はクリストフにたいする若気の美しい情熱に駆られ、熱狂的に稽古けいこを励んだ……。——それから、熱狂は弱ってき、やって来ることも間遠まどおになった。だんだん来なくなった……。
その中に鈍い物音が、間遠まどおに低く聞えるのは、今でも海が鳴っているらしい。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それもやっぱり間遠まどおなので、ハッキリ見ることは出来ませんでしたが、身長せいの小さい薄ぎたない、みすぼらしい様子ではありましたが、それでいて品もあれば威もあって、とても小気味が悪いんです。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土地を踏む前に、その予備知識の吸収におこたりのないお銀様が、七里の渡しの名、間遠まどおの故事を知らないはずはありますまい。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
間遠まどおに日本橋を渡る鉄道馬車の音が聞こえるばかりで、釘店くぎだなの人通りは寂しいほどまばらになっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
我々の慣行には年に一度またはひと一代にただの一ぺんというような、くり返しの間遠まどおなものが多いのに比べて、子どもの遊びは毎日の事件であり、これに参加する者は無数であるうえに
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この声が聞えるのには間遠まどおであった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほう、ほう……ほう、ほうほうと間遠まどおに単調に同じ木の枝と思わしい所から聞こえていた。人々が寝しずまってみると、憤怒ふんぬの情はいつか消え果てて、いいようのない寂寞せきばくがそのあとに残った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
苔香園たいこうえんのほうから園丁が間遠まどおはさみをならす音が聞こえるばかりだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼女の頭に軽く手を置いて間遠まどおにつぶやき始めた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)