遼遠りょうえん)” の例文
ただ遼遠りょうえんな前途への第一歩を踏み出そうとする努力の現われに過ぎないのである。しかしこの意図はほとんど常に誤解されがちである。
物質群として見た動物群 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
老人においてもまたしかりで、もし年齢において行きづまるも理想において行きづまらずんば、その老人の前途たるやひとしく遼遠りょうえんなりといわねばならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それはどこまでも地上に確乎かっこたる存在を占める安定な形や、幅や、重さや、強さを現わしているのであります。それに支那の文化の足跡は遼遠りょうえんであります。
北支の民芸(放送講演) (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
漢字廃止、羅馬ローマ字採用または新字製造などの遼遠りょうえんなる論は知らず。余は極めて手近なる必要に応ぜんために至急新仮字しんかなの製造を望む者なり。その新仮字に二種あり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「目算どおりにゆかぬのが合戦だからな。一日の生活ですら、ゆうべの考えも今朝変り、今朝の目企もくろみが昼にはかえさせられる。殊に中国平定の業は前途まだ遼遠りょうえん……」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
反歌の此一首は、おまえは青雲の志を抱いて、天へも昇るつもりだろうが、天への道は遼遠りょうえんだ、それよりも、普通並に、素直に家に帰って、家業に従事しなさい、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
『アッハハハ前途遼遠りょうえんだね。電車が通るようにでもなったら、また幾らか開けても来ようけれど何しろまだ全くの田舎で、ちょっとしたうまいコーヒー一杯飲ませる家がないんだ。』
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
今の時世の研究や穿鑿せんさくは、むしろ遼遠りょうえんの昔へこそ傾いて行こうとしているのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかして人生の狭少なる心をもって考うればこの不自由的の学校に在る日月のあまりに遼遠りょうえんなりしを見てひそかに疑う者あれども、かれ無極をもって時となし、宇宙をもって家となす
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
このときや燕の軍のいきおい、実に岌々乎きゅうきゅうことしてまさに崩れんとするのれり。孤軍長駆して深く敵地に入り、腹背左右、皆我が友たらざる也、北平は遼遠りょうえんにして、しかも本拠の四囲また皆敵たる也。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まだ前途遼遠りょうえんという次第だが、心がけが遊山気分で、いっこうに足を早めようともせず、こうして日の高いうちからどっかり腰をおろし茶店の老爺ろうやを相手に大いに江戸がっているところ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あざやかなる織物は往きつ、戻りつ蒼然そうぜんたる夕べのなかにつつまれて、幽闃ゆうげきのあなた、遼遠りょうえんのかしこへ一分ごとに消えて去る。きらめき渡る春の星の、あかつき近くに、紫深き空の底におちいるおもむきである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それは前途遼遠りょうえんです。卒業してからまだ半年しかたっていません」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まだほんの序の口で、前途は遼遠りょうえんである。順路帳の方はそのままにして、一寸気持を換えよう。この区域を廻っていた商売敵であるN新聞の配達は朝鮮人の学生であった。日大の法科に通学していた。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
人類を幸福に世界を平和に導く道は遼遠りょうえんである、そこに到達する前にまずわれわれは手近なとんぼの習性の研究から完了してかからなければならないではないか。
三斜晶系 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これすなわち彼の「精神の井戸いど水枯みずがれした」のである、遼遠りょうえんなるべき前途を放棄ほうきしたのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
善悪の道徳がまだ吾々に介在して来ない以前の境地から生れてくることです。こんなにも遼遠りょうえんな出発に、信仰を根差ねざしたものが活々と残っている場合が、どの文化の国に見出せるでしょうか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すると前途遼遠りょうえんという気がおのずから起った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「前途はなお遼遠りょうえん——」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「前途遼遠りょうえんだな」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わが輩らのごとき凡人ぼんじん、あるいは凡人以下の者は、姑息こそくかは知らんが、前途をして遼遠りょうえんならしむることをつとめ、われはたしてかかる大理想ありやいなやを反省する必要があると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)