遁辞とんじ)” の例文
父衛侯の返辞は単なる遁辞とんじで、実は、以前厄介になった晋国が煙たさ故の・故意の延引なのだから、欺されぬように、との使である。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「僕の関係した事でないから、僕は何とも云うまい。だから君もそう落胆イヤ狼狽ろうばいして遁辞とんじを設ける必要も有るまい」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
右の如く口実を設けてのがれんとする者は、なおかつ愛すべし。滔々とうとうたる天下、この口実遁辞とんじを用いる者さえもなき世の中なれ、憐れむべきにあらずや。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
丁度烏賊いかが、敵をおそれて、逃げるときに厭な墨汁を吐き出すように、この男も出鱈目でたらめな、その場限りの、遁辞とんじを並べながら、怱卒そうそつとして帰って行った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
との一話のごときは、なにものかの作説なるべきも、筮者の遁辞とんじにはこれに類すること往々聞くところである。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
恐るべき鉄面皮の遁辞とんじに過ぎないではないか。舌は心の霊苗なり、とはどんな聖人君子の言葉か知らないが、何の事やらわけがわからぬ。完全な死語である。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それがなんの弁解になろう? それはかえって一そう人格を下げる愚劣な遁辞とんじだ! 酒中に真ありというが、その真実があの通りすっかりさらけ出てしまったのだ。
人々は、一時のがれの遁辞とんじだろうとおよそに聞いていたが、一日おいて二日目。この本営には、くしの歯をひくような急変の報らせが、呉国の諸道から集まってきた。すなわちいう
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書きたいことは多いが苦しいから許してくれ玉えとある文句は露佯つゆいつわりのない所だが、書きたいことは書きたいが、忙がしいから許してくれ玉えと云う余の返事には少々の遁辞とんじ這入はいって居る。
独身主義などと云ふ遁辞とんじを作りなさるのは、僕は実に大不平です
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
この口実も一応もっともなるに聞こゆれども、到底とうてい許すべからざるの遁辞とんじのみ。身に覚えたる才学なしというか。けだし多く文字を知らざることならん。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
との一話のごときは、なにものかの作説なるべきも、筮者の遁辞とんじにはこれに類すること往々聞くところである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
他の世界——行為の世界は病弱な自分に対して閉されていたから、などというのは、卑怯ひきょう遁辞とんじであろう。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これはたいへん立派な言葉のように聞えますが、実は狡猾な醜悪な打算に満ち満ちている遁辞とんじです。君はいったい、いまさら自分が誠実な人間になれると思っているのですか。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
「はて、遁辞とんじばかりいわるるの。謙虚はおへんかくみのか」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「君の云う事は皆遁辞とんじだ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かくに幕府が最後の死力を張らずしてその政府をきたるは時勢に応じて手際てぎわなりとて、みょうに説をすものあれども、一場いちじょう遁辞とんじ口実こうじつたるに過ぎず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これは我が国の上流、殊に西洋家と称する一類の中に行わるる言なれども、全く無力の遁辞とんじ口実たるに過ぎず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
遁辞とんじと言うもあまりはなはだしからずや。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)