逆上ぎゃくじょう)” の例文
とかく金に限らず、位置でも名誉でもおのれにするときは、油断をすれば逆上ぎゃくじょうしてこれを利用するを忘れてただ濫用らんようおちいりやすい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
嘲笑ちょうしょう罵声ばせいを聞くたびに千三は頭に血が逆上ぎゃくじょうして目がくらみそうになってきた。かれが血眼ちまなこになればなるほど、安場のノックが猛烈になる。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
狼狽ろうばいきょく逆上ぎゃくじょうしたようになっている音松を案内して、若侍は、かね命令いいつけられていたものらしく、ドンドン奥へ通って行く。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
教師が職業であるか、戦争が本務であるかちょっと分らないくらい逆上ぎゃくじょうして来た。この逆上の頂点に達した時にしもの事件が起ったのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし火を見たとたんに、逆上ぎゃくじょうしている頭では、七けん四方ばかりな羽目板はめいたに、一つの出口がなかなか見つからない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外「これ/\何だ、何を馬鹿を申す、少々逆上のぼせる様子、只今御酒を戴きましたので、惣衞かれ成代なりかわってお詫をいたします、富彌儀ひど逆上ぎゃくじょうをしてる様子で」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は一時はひどく逆上ぎゃくじょうしてしまってぼんやりするほど混雑したり、むやみに苦笑したり、時には泣き出したり、それに色々なことをめまぐるしく考え出したのであるが
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
今この男女を接触せしめると、恋愛の伝わるのも伝熱のように、より逆上ぎゃくじょうした男からより逆上していない女へ、両者の恋愛の等しくなるまで、ずっと移動をつづけるはずだろう。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
五郎造はもう逆上ぎゃくじょうしてしまった。いきなり兵をかきのけて、砲架ほうかによじのぼろうとした。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところで此愛子の若いことがまたおびただしい。強そうな事を言うて居て、まさかの時は腰がぬけます。真闇まっくら逆上ぎゃくじょうします。鮮人騒ぎは如何でした? 私共の村でもやはり騒ぎました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この時も先に述べたる共和党の大会と同じく、容易ようい逆上ぎゃくじょうせぬこの国民にして初めて言論の自由も思想の自由も享有きょうゆうすべきものと思った。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
これはまさしく熱湯のうちに長時間のあいだ我慢をしてつかっておったため逆上ぎゃくじょうしたに相違ないと咄嗟とっさの際に吾輩は鑑定をつけた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
じぶんたちから、南蛮寺なんばんじにある呂宋兵衛るそんべえの部下と名のったおの大九郎、それを見ると、かッと逆上ぎゃくじょうしたていである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気が逆上ぎゃくじょうすると力が逆上して浮きたつ、だから弱くなる、腹をしっかりとおちつけると気が臍下丹田せいかたんでんおさまるから精神爽快せいしんそうかい、力が全身的になる、中心が腹にできる
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
上下をあげて今はもう狂犬みたいに逆上ぎゃくじょうしている——という、目下、大名仲間のもっぱらの噂である。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼は親のような心もちで、修理の逆上ぎゃくじょうをいたわった。修理もまた、彼にだけは、比較的従順に振舞ったらしい。そこで、主従の関係は、林右衛門のいた時から見ると、遥になめらかになって来た。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さなきだに犯罪はんざいや自殺多き夏の季節に、一万四千の腕白者わんぱくものが大都会の一堂に会合したことであり、群集心理の特徴とくちょうとして逆上ぎゃくじょうしやすき時、出席者のうちの大多数は、自称じしょう政治家
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)