迷妄めいもう)” の例文
迷妄めいもうやまず罪禍にまみれようとも、むしろそれを縁として、本来具有する仏性を自覚することに一大事因縁がある。——何事も畏怖いふするなかれ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
耽溺たんでき、痴乱、迷妄めいもうの余り、夢ともうつつともなく、「おれの葬礼とむらいはいつ出る。」と云って、無理心中かと、遊女おいらんを驚かし、二階中を騒がせた男がある。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『猫は元来一ぴつにして、敵味方を争うは迷妄めいもうのもと。これさえ切れば光風霽月せいげつ、手をとってともに山中を行く、これを切るには不動智をもってすべし』
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はすべてを内密に行ない、自分の確実な良識に自惚うぬぼれていて、きわめて漠然ばくぜんたる情報だけで満足していた。人生にはそういう迷妄めいもうがよくあるものである。
けだしこの一派の迷妄めいもうは、その芸術上に於て正しく求めようとする美の意識と、政治運動としてのイデオロギイとを、無差別に錯覚している無智に存する。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
これ理性と論理においては迷妄めいもうの極みである。しかしながらその迷妄の中に、心霊の切なる要求が潜んでいる。その愚劣の中に、魂の哀切なるうめきが聞こえる。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そのころの社会悪と人間性の陥りやすい権勢欲やら迷妄めいもうやらが、余りに地獄化されたものでした。あの匂い優雅な藤原文化も、あえなき血と炎の革命にひんしています。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その人々は、社会的事実としての宗教の存在は認めるのであるが、宗教は本来信ずる価値のないものであり、あるいは宗教は迷妄めいもうであるがゆえに、自分は宗教を信じない、と言うのである。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
敵方蒲生泰軒との親交から坤竜丸の側にそれとなく庇護ひごと便宜をあたえていると知ったなら、大膳亮といえどもその及ばざるを覚り、後難を恐れて、ここらでさっぱりとおの迷妄めいもうを断ちきり
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同じ主義をいだいている故に、表現されたものも同じであると考えるのははなはだしい迷妄めいもうである。芸術にあっては、党派というものは最も拙劣な空想だ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それに反し、この際、迷妄めいもうにとらわれて降らず、君の城郭もあえなく陥落する日となっては、もう何事も遅い、君の一族妻子も、一人として生くることは、不可能だろう。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ迷妄めいもう払い難からん
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
弱冠、生死の迷妄めいもうを捨て、百戦苦闘、今日を築いてきながら、その精神と節操を、門の飾りや往来の見得などと取替えるなどは、実につまらぬ人生の落ちではありませんか
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一切衆生はことごとく仏となる筈だが、しかし悉く仏となる時は来ない。人間の迷妄めいもうは無限、地獄は永遠である。しかもその故にこそ誓願は絶えず、菩薩の夢は永遠なのではないか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
じつは、それが反対に、世人の方の迷妄めいもうであったとしても、世人の常識限界から先へ、思いきった歩き方をして行く者は、いつもたいがい清盛と同じような嘲笑ちょうしょうをうける。
この春のころ、あれほどにまで、予が、自身のいかりをなだめて、心の底よりさとしおいたるに——汝、なお迷妄めいもうまさず、前非を悔いず、前にも増して悪行をたくらみおるな。天をおそれぬしれ者めが
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猿めいた面貌おもざしをした貧しい旅の一青年に会い、豁然かつぜんと、多年の悪夢や迷妄めいもうからまされて——後に年経て、その時の猿顔の男が、羽柴はしば秀吉と名乗っていることがわかり、随身してひとすじの槍を受け
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)