辻々つじつじ)” の例文
演説会のビラが電信柱や辻々つじつじにはりだされ、家々は運動員の応接にせわしく、料理屋には同志会専属のものと立憲党専属のものとができた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
きょろきょろ見廻して来ると所々の辻々つじつじに講演の看板と云いますか、広告と云いますか、夏目漱石君などと云うような名前が墨黒々と書いて壁にりつけてある。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう出陣の支度をはじめたとみえ、活気のあるざわめきが辻々つじつじみなぎっている。かれは追われるような気持でその街並を駆っていたが、石川備後の屋敷へ来ると馬をおりた。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
到る処辻々つじつじの群衆に対して、次の年の吉凶禍福きっきょうかふくを、神の言葉として触れあるいたようである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ポスターのり出された翌朝、それらの辻々つじつじは、又別の意味で、黒山の人だかりであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
会社の徽章きしょうの附いた帽をかぶって、辻々つじつじに立っていて、手紙を市内へ届けることでも、途中で買って邪魔になるものを自宅へ持って帰らせる事でも、何でも受け合うのが伝便である。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
また辻々つじつじには毒蛾の記事に赤インクで圏点をつけたマリオの新聞もはられてゐました。
毒蛾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
須田町すだちょうを通って両国橋の方へつづく電車通りにかけて年の暮れに押し迫った人の往来ゆきき忙しく、売出しの広告の楽隊が人の出盛る辻々つじつじや勧工場の二階などで騒々しい音を立てていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
辻々つじつじには彼の首が百両で買い上げられるという高札まで建てられた人だ。水戸における天狗党と諸生党との激しい党派争いを想像するものは、直ちにその侍の位置を思い知るであろう。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
声もなく眠っているきょうの町は、加茂川の水面みのもがかすかな星の光をうけて、ほのかに白く光っているばかり、大路小路の辻々つじつじにも、今はようやく灯影ほかげが絶えて、内裏だいりといい、すすき原といい
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
赤いショールを掛けて素足すあし短靴たんぐつをはいた特殊な婦人がまるで蝙蝠のように辻々つじつじを素早く走り廻っているようなまちではどこでもこの時刻にはつきものの、或る種の場面や会話が持ちあがっていた。
ひるならばいうまでもなく、甲州盆地こうしゅうぼんちはそこから一ぼうのうちに見わたされて、おびのごとき笛吹川ふえふきがわ、とおい信濃境しなのざかいの山、すぐ目の下には城下じょうかの町や辻々つじつじの人どおりまでが、まめつぶのごとく見えるであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜は、橋のたもと辻々つじつじに銃剣つきの兵隊や警官が頑張がんばった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
いろいろな感慨かんがいが胸にあふれて歩くともなく歩いてくると、かれは町の辻々つじつじに数名の巡査が立ってるのを見た、町はなにやら騒々しく、いろいろな人が往来し
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
二日目には、恒川警部の発案になる、奇妙なポスターが浅草界隈かいわい辻々つじつじに、ベタベタとり出された。ポスターのまん中には画家に描かせた人間ひょう恩田の似顔が、実物の二倍の大きさで印刷してある。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
辻々つじつじの高札場をはいでまわり、市民に諭告をくれてまわった
辻々つじつじに配って警戒に当るよう
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)