転訛てんか)” の例文
旧字:轉訛
『蝦夷語地名解』その他の書には正しくエンルムで、エドモは転訛てんかであると説いてあるけれども、どちらの方が古いか知れたものでない。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
地名は保存されつつ永い年代の間に転訛てんかする、一方で吾々の通用語はまたこれと別の経路を取って変遷するからである。
土佐の地名 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
羽前置賜おきたまで「にぞ」と呼ぶ帽子があるが、これは「にの」の転訛てんかではないだろうか。「にの」は「みの」の通音である。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
カキツバタの語原は書きつけ花の意で、その転訛てんかである。すなわち、書きつけはけることで、その花汁かじゅうをもって布をめることである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
お盆になると、踊りにうたうこの地方の歌垣から転訛てんかしたようなうたも、木の葉笛には複雑すぎてだめだった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
知人故ウィリヤム・フォーセル・カービー氏の『エストニアの勇士篇』にも諸国蛟竜こうりゅうはなしは右様の爬虫類、遠い昔に全滅したものより転訛てんかしただろうと言われた。
一頭の牛の中にわずかよりないエッジボーンという最上等の処だ。俗に牛肉屋でイチボというのは腰の三角肉でエッジボーンの転訛てんかしたのだが全体その周囲まわりは中等以下の肉だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
維新ののち、一異様の日を出現しきたれり。その名称いまだ一定せず、曇濁といい、損徳といい、また呑泥という。みな西音せいおん転訛てんかにして、日曜日の義なり。それ日曜は七曜しちようの一にして、毎週のはじめなり。
日曜日之説 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
そのショウビンも川せみのセミも、共に大昔のソニから転訛てんかした語音であることは、狩谷棭斎かりやえきさいの『箋註和名鈔せんちゅうわみょうしょう』にも既につまびらかに説いている。
次に、子音転訛てんかを拡張して行くと、上記のnが減少し、νが増加するから、これはPに重大な影響を及ぼす事となる。
若い高氏のいた頃の居館は、この鑁阿寺ともいわれるが、四囲の地形から市の背後の本城山(今、両崖山りょうがいさん)かと考えられる。本城つまり本庄、足利政所あしかがまんどころ転訛てんかではなかろうか。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きいのになると堂々たる趣きさえあります。「ひあげ」は提子ひさげ転訛てんかであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
人が他人の妻をオカカだのオッカアだのと謂うのは、畢竟ひっきょうこの舌足らずの音をまた真似したので、カカは決してハハの転訛てんかではないのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
錯覚や誇張さらに転訛てんかのレンズによってはなはだしくゆがめられた影像からその本体を言い当てなければならない。
怪異考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
年代は不詳ふしょうだが往古は荒巻大明神あらまきだいみょうじんといい、讃甘郷の総鎮守として、そのお宮もすぐ裏山の大段という上にあった。で、宮ノもとと称した所から、宮本と転訛てんかしたものと思われる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
方言は必ず転訛てんかと解し、そうでなければ異民族語の混入と見ようとする人には、この系統を説明することが既に容易でない上に、これを右二つの史料に拠って
たとえば子音転訛てんかの方則のごときでも、独断的の考えを捨てて、可能なるものの中から甲乙丙……等の作業仮定を設けて、これらにそれぞれ相当するPを算出し
その経過に際して記憶の誤り、ことに発音の転訛てんかはあり得る上に、これを証文や絵図に書載せる人は、必ずしも用意ある学者でないゆえに、無理な宛字がいくらもある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これらでも、歴史も何も考えずに、子音転訛てんかや同化や、字位転換や、最終子音消失やでなんとかかとか理屈をつければつくであろうし、また中には実際に因果の連鎖のあるものもあるであろう。
この儀来婆の儀来はギライカナイ、すなわち『おもろ草紙そうし』のニライカナイの転訛てんかであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
南の島々の語音は転訛てんかの歩みが、こちらよりもさらに速かったように思われる。「おもろ」は幸いにして古い形を固守していてくれたが、その中にさえもまれにはミルヤカナヤがある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
土地によってはまれにはクデナという処もあるらしいが、その方は転訛てんかである。
勿論もちろんどれがもとでどれが第二次の転訛てんかとも決し得ないが、エンナカは家の中とも居処きょしょとも解せられ、ヘンナカは火からの影響を受けたもの、エレンナカはかえってヰロリとの妥協とも見られる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
本来は穂打藁ほうちわらまたは穂打ちの転訛てんかであったかも知れぬ。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)