身嗜みだしな)” の例文
これらの人々の身嗜みだしなみは、約十二か月ないし十八か月前にはこの上なく上品ボン・トンであったものの正確な模写であるように、私には思われた。
群集の人 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
むしろ身嗜みだしなみで不器量をカムフラージュしているという方だ。僕はその女を認めると、つかつかと傍によって、ちょっとサインをした。
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
身嗜みだしなみよくキチンと頭髪をくしけずって、鼻下にチョビひげを蓄えた、小肥りの身体はかねて写真で調べておいたとおりの伯爵に違いはない。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼女はいったい身嗜みだしなみに金を懸ける方であったのに、板倉とああ云う仲になってからは貯金の必要を感じ出すと共に吝嗇りんしょくになり
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ましてひげを綺麗に剃っている人はごくわずかである。頭髪を刈ったり髯を剃ったりすることは日常の大切な身嗜みだしなみである。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
坊さんという職場など離れて、ただ、人間良寛としての身嗜みだしなみから、書道の研鑽が続けられているということである。
四十代の女も年が改まって松の内となれば、一つは儀式からまた一つは身嗜みだしなみから、薄化粧をもし口紅をもつけて、ちゃんとしておるというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
これは若草の親の作で、女の身嗜みだしなみだと云って、小刀には余程大きい、合口にはっと小さいが作物さくものでございます。
いつでもちゃんとした礼装をして、頭髪を綺麗に分けて、顔を剃り立てて、どこの国の一流のレストランのボーイにもひけを取らないだけの身嗜みだしなみをしていた。
雑記(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼女は、すべてが男性化していて、その汚なげによごれた爪にも、身嗜みだしなみのないことを証拠立てている。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかしこんな話が弘まらぬ筈はない、なにしろ浜松城下を通じて珍しいような美男であるし、浪人に似合わず身嗜みだしなみが良く、月代さかやきひげかつて伸びたところを見せない。
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
身嗜みだしなみが奇麗で、喬は女にそう言った。そんなことから、女の口はほぐれて、自分がまだ出て匇々そうそうだのに、先月はお花を何千本売って、このくるわで四番目なのだと言った。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
良人ある身はこの年でも、なほざりにせぬ、身嗜みだしなみ。形ばかりの丸髷も、御祝儀までの心かや。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
その身嗜みだしなみのために、絶えざる考慮こうりょはらったにちがいない、女性の身体からだが、ゆでだこか何かのように、鉤にるされて、公衆の面前、しかも何等なんらの同情もなく、軽佻けいちょうな好奇心ばかりで
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お俊は身嗜みだしなみのいい女で、朝は暗いうちにお化粧を済ませて、自分の素顔を人に見せたことが無かったと云いますから、そのあばたを隠すためには本人もよほど苦心していたと見えます。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けて見えるのは当り前だけれども、そう云っても今日は一と通り身嗜みだしなみもしているらしいのに、雪子と比べるとまるで彼女は台が違うように見えた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
赤革の靴といい……この人気ひとけのない山の中に、誰が一体、来る人があるのでしょうか? 娘といい父親といい、身嗜みだしなみの正しさには、驚かずにはいられません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
虚栄心などは少しもない、服装とか身嗜みだしなみなどの無頓着むとんちゃくさは、その無頓着さにおいて抜群である。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
帆村はいつも身嗜みだしなみとしていろんな小道具を持っていた。彼はチョッキのポケットから燐寸函ぐらいの懐中電灯をとりだした。カチリとスイッチをひねると、パッと光が点いた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たとへば服装などにしても学生時代こそ薄汚いなりをしてゐたが、紅葉館の宴会以来常に若旦那然たる身嗜みだしなみをして、努めて文筆の士らしい風をすることを避けた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
僕は、機上から下りて、校長閣下を始め御歴々おれきれきに対し、初めて挙手の礼をもって挨拶あいさつをした。鼻汁がたれているのはわかっていたが、これをぬぐうすべをしらないほど平常の身嗜みだしなみに無関心だった。
三重宙返りの記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
容貌ようぼうが端正で儀礼や身嗜みだしなみの心得のある者、と云うことなので、つまりお上品な坊々ぼんぼんでさえあれば頭は少しぐらい低能でもよい、と云うのであるから、全く啓ちゃんに持って来いの口なのである。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)