蹲踞うずく)” の例文
妙子がそれを取次ぐために這入って行くと、病人の寝台の頭の方に嫂と妹が蹲踞うずくまってい、脚の方に老人夫婦がいた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
向うのうちでは六十ばかりの爺さんが、軒下に蹲踞うずくまりながら、だまって貝をむいている。かちゃりと、小刀があたるたびに、赤いざるのなかに隠れる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東洋の片隅に小さくなって蹲踞うずくまってるなら知らず、いささかでも頭角を出せば直ぐ列強の圧迫を受ける。白人聯合して日本に迫るというような事が今後ないとは限らん。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
太功記の次のお俊伝兵衛では猿廻しの与次郎が寝床の中へ這入はいろうとする時、一旦戸締りをした格子を開けて家の前の道傍みちばた蹲踞うずくまりながら小便をする。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
電車を下りて橋を渡る時、彼は暗い欄干らんかんの下に蹲踞うずくまる乞食こじきを見た。その乞食は動く黒い影のように彼の前に頭を下げた。彼は身に薄い外套がいとうを着けていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この頃では、じっと身をすくめるようにして、自分の身を支える縁側えんがわだけが便たよりであるという風に、いかにも切りつめた蹲踞うずくまり方をする。眼つきも少し変って来た。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鼻でとびらを押し開けて這入はいって来て、ストーブの火照ほてりが一番よく当る場所を選んで、人間達の脚と脚の隙間すきまへ割り込み、前肢まえあしの上に首を伸ばしてぬくぬくと蹲踞うずくまった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
天鵞絨びろうどのような毛並と黄金こがねそのままの眼と、それから身のたけよりもよほど長い尻尾しっぽを持った怪しい猫が、背中を山のごとく高くして蹲踞うずくまっている訳になっていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小紋こもん石持こくもちを着た年増の女の、庭下駄にわげた穿いて石燈籠いしどうろうの下に蹲踞うずくまっている人形———それは「虫の音」という題で、女が虫の音に聴き入っている感じを出すのだと云って
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ちゅうぐらいの大きさの、テリア系の雑種の犬が一匹、毛を泥まみれにして、なるたけ雨に打たれないように汽車の車輪の蔭に身をひそめながら、ぶるぶるふるえて蹲踞うずくまっているのを
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうして懸物かけものの前にひと蹲踞うずくまって、黙然と時を過すのをたのしみとした。今でも玩具箱おもちゃばこ引繰ひっくり返したように色彩の乱調な芝居を見るよりも、自分の気に入った画に対している方がはるかに心持が好い。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鈴もさっきから煖炉だんろの前にやって来て蹲踞うずくまりながら、好い心持そうに眼をつぶってうとうとしていたのであるが、妙子に云われて気が付いて見ると、謡曲の鼓の音がぽんと鳴るたびに
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この時吾輩は蹲踞うずくまりながら考えた。陰士は勝手から茶の間の方面へ向けて出現するのであろうか、または左へ折れ玄関を通過して書斎へと抜けるであろうか。——足音はふすまの音と共に椽側えんがわへ出た。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悦子がさっきからローゼマリーと二人で蹲踞うずくまりながら、飯事ままごとをしていた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
宗助はまた本堂の仏壇の前を抜けて、囲炉裏いろりの切ってある昨日きのうの茶の間へ出た。そこには昨日の通り宜道の法衣ころも折釘おりくぎにかけてあった。そうして本人は勝手のかまどの前に蹲踞うずくまって、火をいていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)