賄方まかないかた)” の例文
真志屋五郎作は神田新石町しんこくちょうの菓子商であった。水戸家みとけ賄方まかないかたを勤めた家で、ある時代からゆえあって世禄せいろく三百俵を給せられていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大奥のお賄方まかないかたから酒の代に下しおかれた五百両の小判を奪い去ってからというものは、いっそう詮議がきびしくなった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
坐相撲すわりずもうはなし、体操、音楽のうわさ、取締との議論、賄方まかないかた征討の義挙から、試験の模様、落第の分疏いいわけに至るまで、およそ偶然にむねに浮んだ事は、月足らずの水子みずこ思想
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その堅い結び付きは、実際の戦闘力を有するものから、兵糧方ひょうろうかた賄方まかないかた雑兵ぞうひょう歩人ぶにん等を入れると、千人以上の人を動かした。軍馬百五十頭、それにたくさんな小荷駄こにだを従えた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
旨味おいし南瓜かぼちゃを食べさせないと云っては、おはちの飯に醤油しょうゆけて賄方まかないかたいじめたり、舎監のひねくれた老婦の顔色を見て、陰陽かげひなたに物を言ったりする女学生の群の中に入っていては
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
看護婦どころか大切な病人を預かる病院へ行って患者に与える食物を検査してみ給え、実に言語同断ごんごどうだんなものだぜ。二、三の病院を除くのほか大概は病人の食物を賄方まかないかた任せにしてある。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この変態家族の賄方まかないかたを引受けているというのみならず、このごろ入れた幾多の普請方の大工、左官、人足などにまで配布すべきお茶受けのかてまでもその手であしらっているのでした。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、旗下きかの人々が、令を伝えに出る。とばりのうちは、同朋衆や小姓や賄方まかないかたの者たちの動きでなごんだ。折ふしまた、近郷の社や寺々や庄屋などが、連れ立って、祝の酒と土地の産物などをさかなに持ち
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
島の里方さとかた河内屋半兵衛かわちやはんべえといって、真志屋と同じく水戸家の賄方まかないかたを勤め、三人扶持を給せられていた。お七の父八百屋市左衛門いちざえもんはこの河内屋の地借じかりであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)