見紛みまご)” の例文
と云いながら、すかして九日のの月影に見れば、一人は田中の中間喧嘩の龜藏、見紛みまごかたなき面部の古疵ふるきず、一人は元召使いの相助なれば、源次郎は二度びっく
竜巻がまだ真暗まっくらな、雲の下へ、浴衣の袖、裾、消々きえぎえに、冥土めいどのように追立てられる女たちの、これはひとり、白鷺しらさぎひなかとも見紛みまごうた、世にも美しい娘なんです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紅白の美しい水鳥が、とまどいをして、ゴンドラの上にしばみずかきを休めているかと、見紛みまごばかりだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たちまちに見る前面、後方、ふた手に分れて来る雪か人馬かと見紛みまごうばかりな鉄甲陣。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが自分と同じことに僧形そうぎょうをしている人物であると見て、なお不思議に思いながら近づいて見ると意外、それは頭と顔の円いので見紛みまごうべくもあらぬ師家の慢心和尚であろうとは。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
庭は一隅ひとすみ梧桐あおぎりの繁みから次第に暮れて来て、ひょろまつ檜葉ひばなどにしたた水珠みずたまは夕立の後かと見紛みまごうばかりで、その濡色ぬれいろに夕月の光の薄く映ずるのは何ともえぬすがすがしさをえている。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
西方さいほうよりは牛かと見紛みまごうばかりの
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
美女ヶ原へきますと、十里みなみ能登のとみさき、七里きた越中立山えっちゅうたてやま背後うしろ加賀かがが見晴せまして、もうこのせつは、かすみも霧もかかりませんのに、見紛みまごうようなそれらしい花のこずえもござんせぬが
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)