襟度きんど)” の例文
が、そのかわり忘れてならない物品を列挙すれば、第一に決死の覚悟と大国民の襟度きんど。つぎに、まさに十日間は支えるに足る食糧。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
で、私は、その苦しみを楽しみうる作家こそは、真の作家の襟度きんどであるということをここに申してみたいつもりなのです。
寒生のわたくしがその境界をうかがい知ることを得ぬのは、乞丐こつがいが帝王の襟度きんど忖度そんたくすることを得ぬと同じである。ここにおいてや僭越のそしりが生ずる。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
政治まつり朝廟ちょうびょうで議するも、令は相府に左右される。公卿百官はおるも、心は曹操の一びんしょうのみ怖れて、また、宮門の直臣たる襟度きんどを持しておる者もない。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦争があっても、泰然自若たいぜんじじゃくとしているのが大国民の襟度きんどだ。事変は一時的のものだよ。無論これをしのぐのに国家総動員で全力を尽すけれど、もう一方芸術も大切だいじだ。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あまつさえ自分に罪を犯した不義者を心から悔悛くいあらためさせるための修養書を買って与えたという沼南の大雅量は普通人には真似まねても出来ない襟度きんどだと心から嘆服した。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
これ故人こじんの忠告が不足なるにもあらず、『孝経こうきょう』の悪いのでもない。ひたすら自分が訓戒あるいは忠告を理解するの力なく、これを受けれる襟度きんどのなかったためである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
りなので、おやおやと思う一方また、さすがは大仙台の市民だ、自分のお国の事件が演ぜられているのに平気な顔して見物している、これが大都会の襟度きんどというものかも知れないなどと
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
死ぬまで歌を忘れなかったのは、いかにも忠度らしい襟度きんどだった。
「いや、それでは、大王のご襟度きんどが小さくなります。ひとまず収めて、何気なく使者をお帰しになった上でまたべつにお考えを施せばよろしいでしょう」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かついやしくも前途に平生口にする大抱負を有するなら努めて寛闊かんかつなる襟度きんどを養わねばならない
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と大人物の襟度きんどを示した。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
渭之津いのつ城を脚下にふみ、広大なる大海の襟度きんどに直面しながら、思いのほか、重喜の心が舞躍ぶやくしてこないのも、かれの眉が、ともすると、針で突かれたようになるのも
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、馬琴には奇麗サッパリと譲ってやる襟度きんどが欠けていた。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
何で彼ら遺臣間の乱後の乱に立ち入って、余燼よじん拾得しゅうとくを争おうや——という襟度きんどがあった。それとまた、彼にはもっと実質的な「この際になすべき事が」一方にあった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が中央武人中の錚々そうそうたるものならば、自分も一指をもって中国の風雲を西へも東へもうごかして見せる自信はある者だと、口にはいわないが襟度きんどにそれを示していた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、云わぬばかりな襟度きんどをわざと示しているのである。そのくせ、心のうちには
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)