被衣かずき)” の例文
想うに形は遠く被衣かずきや打掛けに起源を有つものでしょう。断ち方はほとんど能衣裳と変る所がありません。帯を用いはしないのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
被衣かずきやうちかけなどを濡らして頭からかぶったまま、はすの如く池の中にひたって、焼け落ちる伽藍がらんと信長の終焉しゅうえんを目のあたりに見つつ
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は、白地にうす紫の模様のあるきぬを着て、市女笠いちめがさ被衣かずきをかけているが、声と言い、物ごしと言い、紛れもない沙金しゃきんである。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この頃、気分がはっきりしないと云って朝から、被衣かずきをかぶってねていられるので乳母はとうとう大奥様——光君の母上のところに云ってやった。
錦木 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
被衣かずき調えさせてかの猴にきせさせたまいしがほどなく死にけり、帝はやがて御本復ありし、もっともふしぎなりけり。
後宮の寵姫の一人の為にそれで以てかもじこしらえようというのだ。丸坊主にされて帰って来た妻を見ると、夫の己氏は直ぐに被衣かずきを妻にかずかせ、まだ城楼の上に立っている衛侯の姿を睨んだ。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
などと被衣かずきした麗人だの、都めかした町娘だの、若いきれいな御寮人たちが、ささやいたり指さしたり、じろじろ眺めて行ったりした。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次郎は、石段の下にたたずんで、うれしいのか情けないのか、わからないような感情に動かされながら、子供らしく顔を赤らめて、被衣かずきの中からのぞいている、沙金しゃきんの大きな黒い目を迎えた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だから、ひとたび脱いだ女草鞋わらじをはき直して、杖や被衣かずきを手に、うまやの横から庭門をまわり、そして人気もないちんへ身を運んで行ったにしろ
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沙金は、被衣かずきを開いて、汗ばんだ顔を見せながら、笑い笑い、問いかけた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分のかぶっている被衣かずきを一方の女性にょしょうへ羽織ってやろうとする。これをこばんでいるのは上﨟笠じょうろうがさに顔をかくしている姫と呼ばれた人であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうしよう」当惑した顔が被衣かずきのうちで嘆息ためいきをつく。このまま空しく帰るとしたら姫の泣き沈む姿を見なければならない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この岐阜ぎふの御城下を歩いていたら、うす紅梅の被衣かずきをして、供の男に塗笠を預け、買物がてら歩いていた奥様がありました。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半兵衛も駒にまたがり、彼女も駒に乗って、水色の被衣かずきをかぶっていた。戦場を行く旅人にしては、優雅な姿であり過ぎた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「? ……」つぶてをほうって耳をすましている、なんのこたえもない、二つめを投げた、そして、築地ついじの下に、被衣かずきの影をじいっとたたずませていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は被衣かずきをとって遠くに白い手をつかえている。——じっと、目迎えしながら、高氏のその眼はもンどり打っていた。女は、藤夜叉ではなかったのだ。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小声で、信長は、さしまねいていた。はッと、寄って行くと、着ている被衣かずきを彼の顔へよせて、何やらささやいていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、気づいたので、大賀弥四郎はみずから邸に火をけて、どさくさまぎれに逃げようとしたが、かぶっていた女の被衣かずきを却って怪しまれて、町の辻で捕まってしまった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとりは年のころ四十左右さゆう、連れはまだ十七、八かとみえる初々ういういしい女性にょしょうが、いずれも被衣かずきして忍びやかにそこの梟首台きょうしゅだいの前へ来てじっと果てなくたたずんでいるさまだった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鍛冶かじ塗師ぬりし鎧師よろいしなどの工匠たくみたち、僧侶から雑多な町人や百姓までが——その中には被衣かずきだの市女笠いちめがさだのの女のにおいをもれ立てて——おなじ方角へ、流れて行くのだった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城外へ出てから、濠端ほりばたで扮装にかかった。信長は天人仮面てんにんめんをかぶって、被衣かずきをかぶった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の名望が余り高いので、或る時、一市人が、女の被衣かずきをかぶって、彼の側近く寄り
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう濁流にせかれる花と泡沫うたかたの明滅みたいに、白い素足やら夜風のなかの被衣かずき、また、みだれにまかす黒髪などが、むかし薔薇園しょうびえんとよばれた六波羅北苑ほくえんの木戸から東山のほうへ落ちて行き
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は被衣かずきして
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)