藁蒲団わらぶとん)” の例文
清江は稲刈からちょっと帰って来るとその暇を見て、自分の長男の嫁の新しい藁蒲団わらぶとんを作りかえてやっている。実に手早い。
あけた窓、しめた窓、暖炉のすみ、肱掛椅子ひじかけいす普通なみの椅子、床几しょうぎ、腰掛け、羽蒲団はねぶとん、綿蒲団、藁蒲団わらぶとん、何にでもきまった金をかけておくことだ。
その日蔽いの下にあたる舗石の上に、白い藁蒲団わらぶとんが敷いてあった。そしてその上に、やはり真白な毛布にくるまった一人の若い紳士が横たわっていたのである。
大英国はうらやむべき国よなどひそかに思ひ申しさふらふ。この甲板かふばん藁蒲団わらぶとん敷き詰めて角力すまふの催しなどもありしよしにさふらふ。私の室づきの山中は五人抜きの勝利を得しよしさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その次には厚い藁蒲団わらぶとんと絹蒲団を高々と重ねた上に、仰向けに寝ている歌原未亡人の枕元にい寄って、そのツンとそびえている鼻の穴の前に、ソーッと瓶の口を近づけたが
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かかるくるし枕頭まくらもとに彼は又驚くべき事実を見出みいだしつつ、ひるがへつて己を顧れば、測らざる累の既におよべる迷惑は、その藁蒲団わらぶとんの内にはりの包れたる心地して、今なほ彼の病むと謂はば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
同時に昨日きのうまで彽徊ていかいした藁蒲団わらぶとん鶺鴒せきれいも秋草もこいも小河もことごとく消えてしまった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と野鍛冶の夫婦も仕方なく、次郎にうすい藁蒲団わらぶとんかぶせて、程なく明りを消しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、把握力が加わってくるらしく、毛布を掴んだまま、俊太郎の身体ぐるみ、じりじりと、自分の方へ引寄せて、両手で、胸を抱くように——右手は、藁蒲団わらぶとんぐるみ、強烈な力で、引寄せかけた。
ロボットとベッドの重量 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そのほか、出入り口の穴を隠したり、日に二十遍も石を出したり入れたり、藁蒲団わらぶとんの中に漆喰しっくいの欠けをしまい込んだりするのは、言わずものことだ。
あの特等病室の汚れた藁蒲団わらぶとんを、人夫が来て片付ける筈ですから、その時に私が立ち会って
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
余は特に余のために造って貰った高さ一尺五寸ほどの偉大な藁蒲団わらぶとんに佇ずんだ。静かな庭の寂寞せきばくを破るこいの水を切る音に佇ずんだ。朝露あさつゆれた屋根瓦やねがわらの上を遠近おちこちと尾をうごかし歩く鶺鴒せきれいに佇ずんだ。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
荷造り用の箱みたいなものが——おそらく棺かも知れないが——戸棚とだなの代わりになっており、バタのつぼ水桶みずおけの代わりとなり、一枚の藁蒲団わらぶとんが寝床となり