薬瓶くすりびん)” の例文
枕元まくらもとには薬瓶くすりびん、薬袋、吸呑すいのみ、その他。病床の手前にはきり火鉢ひばちが二つ。両方の火鉢にそれぞれ鉄瓶がかけられ、湯気が立っている。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「さあ、早く行きましょう」と不図ふと後方うしろを振向くと、また喫驚びっくり。岩の上には、何時いつしか、娘の姿が消えていて、ただ薬瓶くすりびんのみがあるばかり。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
自分は、診察場と薬局とをかねたこの一室の椅子にって、敷物と、洋卓テエーブルと、薬瓶くすりびんと、窓と、窓の外の山とを見廻した。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
したがって、彼等に残された仕事というのは、十にあまる薬品棚の列と薬ばことを調べて、薬瓶くすりびんの動かされた跡と、内部の減量を見究めるにすぎなかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
熊さんが、よく薬瓶くすりびんなんかを左手にさげて、お使いにゆく姿をみつけると、子供が寄って来てうしろから
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
大谷という女郎屋のせがれは二年生のくせに薬瓶くすりびんへ酒をつめて学校で飲んでいる男で、試験のとき英語の先生のところへ忍んで行って試験の問題を盗んできたことがあった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
我が居るよりは向ひのがはをやせぎすの子供が薬瓶くすりびんもちて行く後姿、三之助よりはたけも高く余り痩せたる子と思へど、様子の似たるにつかつかと駆け寄りて顔をのぞけば、やあねえさん
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
悪くなすっては困りますが、あなたの今いるその監房でです。引取人がなかったものですからね。薬瓶くすりびんで寝台のふちを叩きながら革命歌かなんか歌っているうちに死んじゃったのですが
(新字新仮名) / 島木健作(著)
早速机から薬瓶くすりびん絨毯じゅうたんの上にころがし落してみせ、弁護士の言うことのなんにでもうなずき、なんにでも同意しては、ときどきKにも同じような同意を促して彼の顔をうかがうのだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
手ばやく荷物へかけた黄いろの真田紐さなだひもをといてふろしきをひらき、行李かうりふたをとつて反物のいちばん上にたくさんならんだ紙箱の間から、小さな赤い薬瓶くすりびんのやうなものをつかみだしました。
山男の四月 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
机の上には大きなすずりや厚い帳簿や筆立や算盤そろばんがごたごたといっぱいに置かれてあった。新聞におおわれているあお薬瓶くすりびんを捜しだしながら、彼れはふと大谷円三という封筒の文字に目を留めた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
薬瓶くすりびんもちて休息やすめる雑種児あいのこの公園の眼をおもはしむ。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
手ばやく荷物へかけた黄いろの真田紐さなだひもをといてふろしきをひらき、行李こうりふたをとって反物のいちばん上にたくさんならんだ紙箱かみばこの間から、小さな赤い薬瓶くすりびんのようなものをつかみだしました。
山男の四月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
六畳の座敷は、畳がほけて、とんと打ったら夜でもほこりが見えそうだ。宮島産の丸盆に薬瓶くすりびん験温器けんおんきがいっしょに乗っている。高柳君は演説を聞いて帰ってから、とうとう喀血かっけつしてしまった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それはそれは、遅くなって御免ごめんなさい、何しろこんな所へ居なすっちゃ、身体からだるいから私が背負しょって行ってうちへ帰りましょう」といいながら、手に持っていた、薬瓶くすりびんをその岩の上に置いて
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
爾薩待(立って薬瓶くすりびんをとる)「何反といいましたですか。」
植物医師:郷土喜劇 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)