葦簀よしず)” の例文
もうその頃には鬱陶うっとうしい梅雨もようやく明けて、養神亭ようしんてい裏の波打際でも大工の手斧ちょうなの音が入り乱れて小舎に盛んに葦簀よしずが張られている頃であったが
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と法師から打背うちそむく、とおもかげのその薄月の、婦人おんなの風情を思遣おもいやればか、葦簀よしずをはずれた日のかげりに、姥のうなじが白かった。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
キャラコさんは、物置小屋に古い葦簀よしずがあったのを思い出し、小屋まで駆け戻ってそれをひと抱えかかえて来た。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ドードーッと一じん吹いて来ます風が冷たい風、「夕立や風から先に濡れて来る」と云う雨気あまけで、やがてポツリ/\とやッて来ました、日覆ひよけになった葦簀よしずに雨が当るかと思ううちに
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
社の東側の沼のほとりに出た。葦簀よしずを立てめぐらして、店をしまっている掛茶屋がある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それに葦簀よしずこもの類を縛りつけてそれで取り囲むのであるが、江畑君のお宅のような都会風の座敷廻りなどでは、前もって板で作ったしとみ風のものを設備して、それを外側に立ててあった。
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
捧げた心か、葦簀よしずに挟んで、常夏とこなつの花のあるがもとに、日影涼しい手桶が一個ひとつ、輪の上に、——大方その時以来であろう——注連しめを張ったが、まだ新しい。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新庄以北、釜淵・及位のぞきあたり、山手にかかっては雪がますます深く、山の斜面には雪崩なだれの跡が所々に見える。駅の前は吹雪ふぶきけの葦簀よしずの垣根が作られている。同車の客の土木請負師らしい人は言う。
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
月に浪がかかりますように、さらさらと、風が吹きますと、揺れながらこの葦簀よしずの蔭が、格子じまのように御袖へ映って、雪のはだまで透通って、四辺あたりには影もない。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ葦簀よしずの屋根と柱のみ、やぶれの見える床の上へ、二ひら三ひら、申訳だけの毛布けっとを敷いてある。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勇美子も夜会結びのびんずらを吹かせ、雨に頬を打たせていとわず、掛茶屋の葦簀よしずから半ば姿をあらわして
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蘆の中に路があって、さらさらと葉ずれの音、葦簀よしずの外へまた一人、黒いきものの嫗が出て来た。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空茶店あきちゃみせ葦簀よしずの中で、一方の柱に使った片隅なる大木の銀杏いちょうの幹に凭掛よりかかって、アワヤ剃刀を咽喉のどに当てた時、すッと音して、滝縞たきじまの袖で抱いたお千さんの姿は、……宗吉の目に
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの低い松の枝の地紙形じがみなり翳蔽さしおおえる葉の裏に、葦簀よしずを掛けて、掘抜にめぐらした中を、美しい清水は、松影に揺れ動いて、日盛ひざかりにも白銀しろがねの月影をこぼしてあふるるのを、広い水槽でうけて、その中に
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)