芸者げいしゃ)” の例文
葉子は心の奥底でひそかに芸者げいしゃをうらやみもした。日本で女が女らしく生きているのは芸者だけではないかとさえ思った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わたしはその雅号を彩牋堂さいせんどう主人ととなえている知人の愛妾あいしょうはんという女がまたもと芸者げいしゃになるという事を知ったのは
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
常磐津ときわずのうまい若い子や、腕達者な年増としま芸者げいしゃなどが、そこに現われた。表二階にも誰か一組客があって、芸者たちの出入りする姿が、簾戸すだれどごしに見られた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
帯広おびひろは十勝の頭脳ずのう河西かさい支庁しちょう処在地しょざいち、大きな野の中の町である。利別としべつから芸者げいしゃ雛妓おしゃくが八人乗った。今日網走線あばしりせんの鉄道が㓐別りくんべつまで開通した其開通式に赴くのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
学生がくせいたちは、いわゆる芸術家げいじゅつかを、芸者げいしゃかなどのように、品定しなさだめしているのでした。
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
歌をうたいたい歌のじょうずな娘が、なぜ歌をうたってはいけないのだろう。三度目の家出のとき、彼女は芸者げいしゃになって出ようとしていたという。つれにいった母親に彼女は泣いてしがみつき
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
大切な尊客の前において、不用意なる能をお目にかけなどしたは、みぐるしき曲事くせごとたるばかりでなく、芸者げいしゃとして、平常の心がけの不つつかによる。芸道の鍛錬たんれんも、武家の兵法も、変りあるべきでない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これはこのうちにいる芸者げいしゃでね、林大嬌りんたいきょうと言う人だよ。」
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一時牛込うしごめ芸者げいしゃになり、一年たつかたたぬうち身受みうけをされて、人のめかけになっていた京子という女と絶えず往来ゆききをしていたので、田舎者の女房などになる気はなく
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
単にお糸一人の姿のみならず、往来でれちがった見知らぬ女の姿が、島田の娘になったり、銀杏返いちょうがえし芸者げいしゃになったり、または丸髷まるまげの女房姿になったりして夢の中に浮ぶ事さえあった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女髪結の出入先でいりさきに塚山さんといって、もと柳橋やなぎばし芸者げいしゃであったおおめかけさんがあった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
水門すいもん忍返しのびがえしから老木おいきの松が水の上に枝をのばした庭構え、燈影ほかげしずかな料理屋の二階から芸者げいしゃの歌ううたが聞える。月が出る。倉庫の屋根のかげになって、片側は真暗まっくら河岸縁かしぶち新内しんないのながしが通る。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)