肯綮こうけい)” の例文
併し藤房をして中興政治の禍根を指摘させて居る所など、『太平記』著者の史眼は烱々けいけいとして、其の論旨は肯綮こうけいに当って居ると思う。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかしすることはいつも肯綮こうけいにあたっていて、間然すべきところがない。弥一右衛門は意地ばかりで奉公して行くようになっている。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あなたの一般的批評はその観察の深くかつ大にして肯綮こうけいに当つて居る事を示して居り、あはせてあなたの天才を引立たせて居ります。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
適確な記述の文章を背地に置いて奈何いか肯綮こうけいに当り、手に入ったものであるかは、原文が簡単であるだけになおよく分る。
老将の見解にはおのずから肯綮こうけいに値するところが多い。光秀も内心は大いに心をかれないこともなかった。けれど彼は
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、此がなか/\の講談通で、当代講談界の名人上手を月旦して、一々、その芸評がまた肯綮こうけいに当つてゐる。
落語家温泉録 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
また昔日の考察も今日の日本の状況に照して多少肯綮こうけいを得る点なきにしもあらざると思って掲載するのである。
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
なかなか肯綮こうけいに当っていてするどい、その日本を主とした宗教観は現在にも有要だと思えるので、ひまひまに読んだり話を聞いたりしているようなわけです
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
弁士の言論の曖昧あいまい矛盾を指摘した。そのいわんと欲していい得ざる点を補足した。僕らの弥次は大抵その肯綮こうけいに当っていた。聴衆は僕らの弥次に拍手し出した。
新秩序の創造:評論の評論 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
それでただ今校長及び教頭のお述べになったお説は、実に肯綮こうけいあたった剴切がいせつなお考えで私は徹頭徹尾てっとうてつび賛成致します。どうかなるべく寛大かんだいのご処分をあおぎたいと思います
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の批評には、見当ちがいな点も多分にあったが、中には肯綮こうけいにあたった部分も少なくなかった。
昭和四年の文壇の概観 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
その簡単な批評がまたよく肯綮こうけいに当っていた。私は先生の直観の鋭さに敬服すると共に、先生のものにじない不敵な魂を感じた。他の書物など、全く眼中にないようである。
西田先生のことども (新字新仮名) / 三木清(著)
無学な人が創りだした渾名でも、渾名といふものは大概肯綮こうけいに当つてをり、人を頷かせる所があるものだ。ところがノンビリさんに限つて、凡そ人に成程と思はしめる所がない。
古都 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
故に彼の苦闘はこの新原理を発見せんがための苦闘である。そしてエリパズら三友の言辞の肯綮こうけいに当らずかつその同情の不足せるは、これまた第三種の災禍を知らぬからである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
その折は迷惑に思ったガヷナーの説諭も一々肯綮こうけいに当っていると考えられた。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
のみならず悲観論者は、群雄割拠になると、その群雄の各々の領内には数多の群盗が横行して、その秩序はいやが上に乱脈になると想像するらしいが、これが果して肯綮こうけいにあたった想像であろうか。
ことごと肯綮こうけいに当るばかりでなく、最も侯爵を喜ばせたのは、幾百万の金銭にも換え難き名宝として珍蔵せる、藤原ふじわら時代の極彩色ごくさいしき仏画「閻魔天像えんまてんぞう」と、同時代の作、木造塗箔の阿弥陀如来あみだにょらい坐像との前に
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
先生の批評が常に肯綮こうけいあたっていたからであろう。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
も確かに肯綮こうけいに当っている。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのことばは、大いに曹操の肯綮こうけいにあたったらしい。彼は、龐統がそう云い出したのを幸いに
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日の科学においては地球の長さ、幅、目方を正確に知られている(太陽や月のそれさえ知られている)。故にヨブ記のこの言は何ら肯綮こうけいに当らないという人があるかも知れぬ。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
久しく東洋の研究に興味をつて居る翁がわが浮世絵の作家の名を幾人もすらすらと列挙して「自分は春信をより多く好む」などと肯綮こうけいあたつた批評をせられたのは意外であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
みなウームウームと唸ってしまうくらい、肯綮こうけいにあたっていることばかりでした。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
虚子きょし四方太よもたの諸君は折々この点に向って肯綮こうけいにあたる議論をされるようであるが、余の見るところではやはり物足らぬ心持がする。余の云う事も諸君から見れば依然として物足らぬかも知れぬ。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)