はずか)” の例文
少しはずかしいと思って、起すのをやめて、かいまきのそでをまくり上げたり、枕の近所を探して見たりしたけれども、やっぱりありません。
僕の帽子のお話 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ただ若旦那がこいさんの機嫌きげんを取るためにはどんなに一生懸命であるかと云うことを、申しているのである、おはずかしい話をするようだけれども
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と思うのですが、こんなすれっからしになった私ですのに、智恵子の事だけはどういうものかはずかしくって、伯父にもその消息を訊けませんでした。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
わけも申さずう申しては定めて道理の分らぬやつめと御軽侮おさげすみはずかしゅうはござりまするし、御慈悲深ければこそ縄までといて下さった方に御礼もよくは致さず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もしやこれが話にきく恐しい病気だったら、どうしようと覚えず身顫みぶるいをした。医者に見てもらった方がいいとは思いながら、はずかしさと恐しさが先に立って見て貰いには行けない。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
居眠りしていたのを見られたかと思うとちょっとはずかしい気がした。というのは全くの見ず知らずではなかったからだ。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
私は自分の身内からそう云う妹を出したことをはずかしく思います。蒔岡家に取ってもこの上もない不名誉です。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
中頃は振残ふりのこされし喞言かこちごと、人にはきかがたきほどはずかしい文段もんだんまでも、筆とれば其人の耳につけて話しするような心地して我しらずおろかにも、独居ひとりいうらみを数うる夜半よわの鐘はつらからで
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人生五十の坂も早や間近の身を以て娘同様のものいつも側に引付けしだらもなきていたらくはずかもなく御目にかけ候傍若無人ぼうじゃくぶじん振舞ふるまいいかに場所がらとはもうしながら酒めてははなはだ赤面のいたりに御座候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
はずかしいお話ですが、兄はあの通りの無頓着な人だったものですから、まだ墓地がなかったんでございます。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
先刻さっき内々戸のすきから見たとは違って、是程までに美しいそなたを、今まで木綿布子ぬのこ着せておいた親のはずかしさ、小間物屋もよばせたれば追付おっつけくるであろう、くしかんざし何なりとすきなのを取れ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自分の意気地なしが腹立しくはずかしくもなって、思い切って静かにハンドルを廻しました。しかし私の心臓は烈しく鳴り、恐しくってドアを前にひけませんでした。
妖影 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)