縦縞たてじま)” の例文
くるりと入口へ仕切られた背中になると、襖のさんはずれたように、その縦縞たてじまが消えるがはやいか、廊下を、ばた、ばた、ばた、どたんなり。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どろどろして灰色に見える小さな縦縞たてじまのある白い単衣ひとえを着た老人は、障子しょうじを締めてよぼよぼと来てちゃだいの横に坐った。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
黒襟かけた三すじ縦縞たてじまの濃いお納戸なんどの糸織に包んで、帯は白茶の博多と黒繻子くろじゅす昼夜ちゅうや、伊達に結んだ銀杏返いちょうがえしの根も切れて雨に叩かれた黒髪が顔の半面を覆い、その二
黄ばんだ赤茶けた色が泣きたいほど美しい。何時か一日のうちに紫に変つた地の色は、あの緑の縦縞たてじまを一層引立てる。そのうへ、今日は縞には黒い影の糸が織り込まれて居る。
また、その色のとりまぜがおもしろい。だんだらぞめ、荒い縦縞たてじま、横縞をはじめ、まったくそうぞうもつかない色どりをもったのがいる。そして、その形もまためずらしいのが多い。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
白地にあい縦縞たてじまの、ちぢみ襯衣しゃつを着て、襟のこはぜも見えそうに、衣紋えもんゆる紺絣こんがすり、二三度水へ入ったろう、色は薄くも透いたが、糊沢山のりだくさんの折目高。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二十二三に見える長手ながてな顔をした淋しそうな女で、白っぽい単衣ひとえものの上に銘仙めいせんのような縦縞たてじま羽織はおりを引っかけていた。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
客は五十前後の顔のあか黒くあぶらやけにやけた、金縁の眼鏡めがねをかけた男で、ずんぐりした体をおおうた焦茶こげちゃのマントの下から地味な縦縞たてじまの大島のそろいをのぞかしていた。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
階下した添乳そえぢをしていたらしい、色はくすんだがつやのある、あいと紺、縦縞たてじまの南部のあわせ黒繻子くろじゅすの襟のなり、ふっくりとした乳房の線、幅細くくつろいで、昼夜帯の暗いのに、緩くまとうた
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背きがち、うなだれがちに差向ったより炉の灰にうつくしい面影が立って、そのうすい桔梗の無地の半襟、お納戸縦縞たてじまあわせの薄色なのに、黒繻珍くろしゅちんに朱、あい群青ぐんじょう白群びゃくぐんで、光琳こうりん模様に錦葉もみじを織った。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)