かさね)” の例文
かさね崇禅寺そうぜんじ馬場の大石殺し、または、大蛇の毒気どくけでつるつるになった文次郎ぶんじろうの顔などが、当時の悪夢さながらに止められているのである。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
祐天僧正の弘経寺にあった時かさねの怨霊を救った事、また境内の古松老杉鬱々うつうつたる間に祐天の植付けた名号みょうごう桜のある事などが記されている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかも僕の見た人形芝居は大抵小幡小平次とかかさねとかいう怪談物だった。僕は近頃大阪へ行き、久振りに文楽を見物した。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから、同じ円朝物の「真景かさねふち」が近来有名になった。しかし大体に於いて怪談劇に余り面白いものは少ない。
怪談劇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「粟田口」「かさねヶ淵」「榛名の梅ヶ香」「池ヶ鏡」「名人長次」「塩原多助」と数々の新作を発表して満都の好評を博したのは、全く他の企て及ばざるところ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
賤「遅いったって見る処がないからかさねの墓を見て来ましたが、気味が悪くて面白くないから帰って来たの」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かさねではないが、それ以来の主膳は鏡を見ることを嫌う。お絹がお化粧をしているところへ通りかかって、つい自分の顔が鏡面に触れた瞬間などは、あわててそれを避ける。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
俺の心は慟哭せむが爲に鏡に向ふかさねである。鏡中の姿を怖るるが故に再度三度重ねて鏡を手にする累である。反省も批評も自覺も凡て病である。中毒である。Sucht である。
三太郎の日記 第一 (旧字旧仮名) / 阿部次郎(著)
が、それが何だか思ふまいとしても、かの「かさね」の恨み死ぬ顏までを思ひ出させる。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
与右衛門の前を歩いていた女房のかさねが足を止めて、機嫌悪そうな声で云った。
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……ハハ、お前知つてるか? 南北と言ふ人の「かさね」と言ふ芝居の中にね、伊右衛門と言ふ悪党が出て来るんだよ。いゝかい? そいつがなあ、かう言ふんだ。「首が飛んでも死ぬものか!」
浮標 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
明烏あけがらすかさね身売りの段を語った。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
しかも僕の見た人形芝居は大抵たいてい小幡小平次こばたこへいじとかかさねとかいふ怪談物だつた。僕は近頃大阪へき、久振ひさしぶりに文楽ぶんらくを見物した。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一体少し師匠は額の処が抜上ぬけあがって居るたちで、毛が薄い上にびんが腫上っているのだから、実に芝居で致すかさねとかお岩とか云うような顔付でございます。医者が来て脈を取って見る。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あるいは牡丹の花の開く工合、本所七不思議の化物、大切りには「鏡山」のお初岩藤、「かさね」の土橋の殺しなど怪談めいた狂言で、セリフや鳴物入りの大車輪、いわばトーキーのさきがけ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
お岩かかさねにでも執着とりつかれたような心持で、わたくしは怖々こわごわながら付いて行くと、女はすすり泣きをしながら、どうで一度は知れるに決まっていると覚悟はしていたが、さてこうなると悲しい
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
弘経寺という寺は結城と飯沼との両処にあってともに浄土宗関東十八檀林だんりんに列せられている。飯沼の弘経寺は元禄げんろく十三年祐天上人ゆうてんしょうにんが住職の時かさね怨霊おんりょうを化脱させたというので世に知られている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ヘエうでございますか、本当に二人が情夫いろか何かなれば、ずうっと行くが、なんでもなくってはうはいきませんが、下総と云えば、んですね、かさねの出た処を羽生村と云うが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)