紙縒こより)” の例文
それは紙縒こよりで固く縛ったうえにいちいち封印がしてある、いずれ藩政に関する助左衛門自身の秘録であろう、どれにも札紙が付いていて
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから、あれはまた何の催しだったのか、部屋中に一杯賞品が飾られ、父の机の上には紙縒こよりくじの大きな束が置いてあった。
昔の店 (新字新仮名) / 原民喜(著)
袂から紙を出してわざ/\紙縒こよりを拵へて、それを長くつないだのを看護婦の背中へくつ附けて、知らぬ顏をしてゐたりなぞして人を笑はせた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
武蔵は、懐紙を取り出して、紙縒こよりを作り始めた。幾十本か知れぬほどっている。そしてまた、二本よりい合せて、長さを測り、たすきにかけた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとへ使ひ古した半紙や巻紙の一切ひときれでも、何か棄てるに忍びないではないか。紙縒こよりにでもすれば又甦つて来るからである。昔の人はそれで布を織つた。
和紙の教へ (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
なぜと言って、あなたの身体は紙縒こよりのようによじれていたし、ものを言うにも一口毎に息を切らしながら「おねえさま、あたくしこれで恋が出来ましょうか」
健康三題 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
愛藏の來國俊のつば際から、美濃紙八つ切の紙が一枚、半分ほどを紙縒こよりにしたのがヒラヒラとブラ下つて、その紙の端つこの方に、最も職業的な惡達者な文字で『見切物』と三字
初めて小謡を習いに行くと、翁は半紙を一帖出して自分で紙縒こよりをひねって綴じる。それから墨を磨って表紙に「小謡」と書いて、その右下に弟子の姓名を書く。その一枚をめくって
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
紙を引き裂いて紙縒こよりとし、数十本の鬮を作り、一人一人それを引いて行った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はしとか紙縒こよりとかのさきを少し折曲おりまげたものを、くるくると両手のてのひらみ廻し、その突端の向いて止った方角の人に、盃を押しつけるという方式がもとはあって、そのはやし文句もよく似ていた。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこで彼はまたすわり、こんどは塵紙を引きさいて紙縒こよりをよりにかゝる。途中で切らないやうにこの粗惡なぼろぼろな紙で完全な紙縒をよるといふことが、しばらくのあひだ彼をよろこばせるのだ。
盲目 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
紙縒こよりを煙管の中に通していた。「石山の信ちゃとられたものな。」
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
杢助は横になって煙草をふかしていた。飯篠老人は坐って紙縒こよりをよっていた。杢助は若侍を見て、それから飯篠老人の方を上わ眼に見た。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、らざる辞儀作法をとりのぞき、ツツと身を進めて、手に携えて来た渋紙づつみの紙縒こよりをぶつぶつと断ちきった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙縒こよりのついた袋が四つと、平つたい小さいびんに這入つたウヰスキーか知らと、蚕豆そらまめの油で上げたやうなのを壜に詰めたのと、それだけが這入つてゐた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
愛蔵の来国俊の鍔際つばぎわから、美濃紙八つ切の紙が一枚、半分ほどを紙縒こよりにしたのがヒラヒラとブラ下って、その紙の端っこの方に、最も職業的な悪達者な文字で「見切物」と三字
その通りにすると今度は両手を突いて頭を下げよと云うので、又その通りにすると翁は自筆の短冊を二枚美濃紙に包んで紙縒こよりで縛ったものを筆者の襟元から襦袢じゅばんと着物の間へ押し込んだ。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
雲霧が懐紙かいしを出して、五つに細く裂き、それを日本左衛門に差出すと、かれの代りに先生せんじょう金右衛門が、その紙縒こよりの末に、いちいち何かをしたためました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手紙を書く者、顔を寄せてひそやかに何か語り合っている一組、それを横に聞きながら、する事もないように、紙縒こよりで耳を掘っているのは、赤埴源蔵だった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは雁皮がんぴ紙縒こより渋汁しぶを引いた一種の糸で、袋のように編んだ物である。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はそのあとで、その人が脱いで行った小袖や肌着を畳んでは、それに遺書やら遺品も添えて小札こふだを付け、たんねんに紙縒こよりくくっていたのであった。——するとそのうち、潮田又之丞の番が来た。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かいも削ったし、紙縒こよりれたし——そして考える何事も持たない。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙縒こよりの端を順にひろげて見ました上、役割はこうと極まりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金右衛門が紙縒こよりの先を一同へ向けましたが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)