簑笠みのかさ)” の例文
と、心のひとつな婦人ばかりが結束して、頭巾ずきん簑笠みのかさに身をつつみ、命令の時間までに、鎮台へ行こうと誘い合せているのだった。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
滝をくつがえすようで小歇おやみもなく家に居ながらみんな簑笠みのかさしのいだくらい、茅葺かやぶきつくろいをすることはさて置いて、表の戸もあけられず、内から内、となり同士
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
最早梅雨つゆに入って、じめ/\した日がつゞく。簑笠みのかさで田も植えねばならぬ。畑勝はたがちの村では、田植は一仕事、「植田うえだをしまうとさば/\するね」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
身をのごはずきるものをあらため雪ふらずとも簑笠みのかさ也、あるひはいかなる雪荒ゆきあれにもいとふ事なくかねうちならしつゝゆく。
海陸飛脚の往来櫛歯くしのはくよりもいそがわしく、江戸の大都繁華のちまたにわか修羅しゅらちまたに変じ、万の武器、調度を持運び、市中古着あきなう家には陣羽織じんばおり小袴こばかま裁付たっつけ簑笠みのかさ等をかけならべ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
雨は煙のようで、遠くもない八幡はちまんの森や衣笠山きぬがさやまもぼんやりにじんだ墨絵の中に、薄く萌黄もえぎをぼかした稲田には、草取る人の簑笠みのかさが黄色い点を打っている。ゆるい調子の、眠そうな草取り歌が聞こえる。
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
九人の者が簑笠みのかさを着て、熊野街道を通っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
簑笠みのかさ仕度で
朝おき雀 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
をつと簑笠みのかさを吹とられ、つま帽子ばうしふきちぎられ、かみも吹みだされ、咄嗟あはやといふ眼口めくち襟袖えりそではさら也、すそへも雪を吹いれ、全身ぜんしんこゞえ呼吸こきうせま半身はんしんすでに雪にめられしが
蛙の声の間々あいあいに、たぶ/\、じゃぶ/\田圃におとがする。見れば簑笠みのかさがいくつも田に働いて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
与右衛門は簑笠みのかさのまま、渓流のふちへ崩れ落ちた石を一箇一箇、上の小道へ上げ始めた。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
膝まで泥になって、巳之吉亥之作が田螺拾たにしひろいに来る。簑笠みのかさの田植は骨でも、見るには画である。螢には赤い火が夏の夜にちら/\するのは、子供が鰌突どじょうつきして居るのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)